経営層への3つの提案

 1つ目は、自社のAI戦略を「インフラかアプリか」という視点で整理し直すことです。

 インフラ側で勝負できるのか、アプリ側で世界市場を取りに行くのか。そのどちらでもない中間領域に、長期的な勝ち筋があるのか。

 社内のAIプロジェクトや投資案件をこのフレームで見直してみると、驚くほど景色が変わるはずです。

 2つ目は、既に膨大な投資が行われたAIインフラを「遠慮なく使い倒す」マインドセットを組織にインストールすることではないでしょうか。

 電気代やクラウド費用を節約することも大事ですが、せっかく誰かが何兆円もかけて用意してくれたインフラです。

 その上で、より大きな価値を素早く生み出す側に回った方が、社会全体にとっても、自社にとってもリターンが大きくなります。

 3つ目は、若い世代、特に20代30代の技術者に「AIアプリケーション発掘」の自由枠を与えることです。

 社内ツールの省力化だけでなく、世界の80億人のうち誰かに刺さるAIサービスを考えてみろ、と本気で言ってみる。

 その結果、しょぼい試作品が量産されるかもしれません。それでいいのです。

 インターネット黎明期のドットコムバブルだって、9割は消えましたが、残り1割が世界を作り替えました。

 ChatGPTが公開された2022年の冬、私はAIにこんな質問をしました。人間はこれから何をすればいいのか、と。

 返ってきたのは、人間は身体を持っているのだから、たくさん体験して、それをあなたの言葉で語ってほしい、という趣旨の答えでした。

 それからの2年間、私はその言葉を真に受けて、日本中、世界中でAIの講演を60回以上続けてきました。

 飛行機に乗って、現地の空気を吸って、現場の経営者やエンジニアと議論して、またChatGPTに戻ってくる。

 その往復運動の中で一つだけ確信を持てるようになったことがあります。「AIインフラは、もう十分すぎるほど整った」。

 これからの主役は、人間の想像力と現場感覚で「何に使うか」を決める側だ。インフラ側に直接行ける人は、ぜひ挑戦してほしいと思います。

 しかし、圧倒的多数の我々にとって、本当に大きなチャンスがあるのは、AIアプリケーションの側です。

 日本から次のユーチューブやLINEに匹敵するAIサービスが生まれるかどうか。それは、今この瞬間、技術者と経営者がどの戦場を選ぶかにかかっています。

 どうせ同じ時間と労力を使うなら、世界のインフラにただ乗りして、最大限レバレッジをかけた方がいい。

 それが、今のAI時代に伝えたいことです。