完璧な技術は人を感動させない
1980年代に失敗作とされたドラムマシン「TR-909」が音楽を変えたように、AIの不完全さもまた人間の創造を刺激しています。
今、私たちは完璧ではないAIが、人間の知性を拡張する時代に立っているのではないでしょうか。
1983年、ローランドが発売したドラムマシンTR-909は、当時の音楽業界で中途半端な失敗作と見なされていました。
それ以前に登場していた「TR-808」がすでに人気を博しており、その後継機として登場したTR-909にはより生ドラムに近づけるという期待がかけられていたのです。
ところが、実際のTR-909は中途半端なハイブリッド構成を採用していました。
キックやスネアなど主要部分はアナログ回路で生成し、シンバルやハイハットにはデジタルPCMサンプリングを使用。
その結果、音はリアルでもなければ完全に電子的でもなく、どっちつかずの印象を与えてしまいました。
当時のミュージシャンの多くは、「音が生っぽくない」「ドラムの代用にもならない」と評価しました。
メーカー側も当初は高い期待を寄せていたものの販売は振るわず、早々に生産を終了することになります。
発売当時の市場価格は1台14万円前後。今でこそ中古市場で100万円近くの値がつく名機ですが、当時は全くの不人気商品だったのです。
しかし、TR-909は静かに別の世界で命を吹き返します。それが1990年代のクラブカルチャーです。
