失敗作を次々使い始めた音楽家たち
ディスコからハウス、テクノへと音楽が変化していく中で、アナログレコードの低音を強調する独特のサウンドが求められていました。
そのとき、TR-909のキックが偶然にも理想的な響きを持っていたのです。TR-909のバスドラムは、低音に太さがありながらもアタックが鋭く、スピーカーを通すと身体に響きます。
それは、生ドラムをサンプリングした音源では得られない力強さでした。
また、機械的なタイミングで刻まれるリズムの精度が、クラブのフロアで踊る人々にトランス状態をもたらしたのです。
音楽家たちは、当初は失敗作とされた909を積極的に使い始めました。
ヨーロッパのハウスやテクノのアーティストたちは、TR-909を単なるリズムマシンではなく楽器として扱い、音色を加工しながら独自のスタイルを確立していきます。
結果として、TR-909は電子音楽の鼓動と呼ばれる存在になりました。
何を隠そう、DJ時代に私は2台もTR-909を所有していたのです。
ハウス、テクノミュージックには欠かせない存在です。今でもTR-909のハイハットの音は、決して真似できないものだと思っています。
クラブに鳴り響くTR-909の音があるからこそ、クラブは盛り上がるのです。ここに象徴的な真理があります。
不完全な技術こそ、人間の創造力を刺激するということです。