いつしか「選手がユニフォーム姿を家族に見せる最後の機会」に

 かつて、プロ野球を引退した選手は野球指導者になるか飲食関係の仕事をする人が多かったが、今やプロ野球経験者が活躍できる世界は広がっているといって良い。

 一般的なトライアウトでは、選手は身体測定の後、50m走、ブルペンでの投球、ノック、打撃などのテストを受けるが、「12球団合同トライアウト」では「シート打撃」だけだ。「シート打撃」とは、野手が守備位置についた形で投手が打者に投球する実戦形式の練習スタイルだ。

 投手は3人の打者に投げ、打者は7~8人の投手を相手にする。そして安打、三振、四球などの結果を記録していく。

 野手は守備位置につき、打球を処理するが、野手数は毎回少ないので、本来とは異なる守備位置に就くこともある。

 塁に出て盗塁をすることもできるが、安打を打っても塁に出ないこともある。

 プロスカウトの一人は、

「我々は、打席やマウンドだけでなく、グラウンドに出てからの動きを見ている。キャッチボールやランニングの様子、守備位置での動作などもチェックして、本当に動けるかどうかを確認している」

 と話す。

 しかしながらNPBは2024年、「12球団合同トライアウト」の打ち切りを決めた。

 近年、シーズン終盤になると、戦力外になりそうな選手に対し関心がある他球団は内々に調査を進めることが多い。連絡を受けた球団は、シーズン終盤の二軍戦にベテラン選手を出場させたりする。

 戦力外通告を受けた選手の中には、すでに他球団とコンタクトをとっている選手も少なからずいるのだ。そういう選手は基本的に「12球団合同トライアウト」には参加しない。中には「最終確認」として出場するケースもあるが、多くの出場者は、他球団が関心を示さなかった選手だというのが実情だ。

 特にファームの試合にもあまり出場していないような育成選手は、他球団もほとんどデータがなく、関心を持たれない。

 中には、24年の楽天の清宮虎多朗のように一発勝負の「トライアウト」で、出場全選手中最速の154km/hをマークして日本ハムと育成契約を結んだ例もあるが、「12球団合同トライアウト」に出場して、NPB球団と再契約する選手は毎年1割以下になっている。

2024年ZOZOマリンスタジアム 開始前のオリエンテーション(筆者撮影)

 そうした事情もあり、今では12球団合同トライアウトは、実質的に「プロ野球選手がユニフォーム姿を家族に見せる最後の機会」にもなっている。

 こうしたことを受けて、NPBは「一定の役割を終えた」とした。