世界でも先駆的と評価されている改正資金決済法

 4つ目の理由は、前回の記事でも触れた、規制環境の整備だ。

 暗号通貨を含む暗号資産はかつて、法的な位置づけが曖昧な時代もあったが、日本は比較的早い段階から、利用者保護や裏付け資産の管理について明確なルール作りを進めてきた。2023年6月に施行された改正資金決済法は、ステーブルコインを「電子決済手段」として明確に定義し、発行のための具体的なルールを定めた。

 この法改正の重要なポイントは、発行者を銀行、信託会社、資金移動業者に限定したことであり、これにより発行主体の信頼性が担保されるようになった。また、発行されるステーブルコインと同額の準備資産の保有と保全が義務付けられ、価値の安定性が守られるとともに、厳格な本人確認(KYC)や取引記録の保存が義務付けられ、マネーロンダリング対策も強化された。

 こうした日本の取り組みは、ステーブルコインの定義や発行方法について具体的に法律で明記したという点で、世界でも先駆的なものと受け取られている。

 米国では2025年7月に包括的な規制枠組みである「GENIUS法」が成立し、欧州でも「MiCA(EU暗号資産市場法)」が2024年6月に施行されるなど、国際的にも法整備が進んでいるが、日本はこれらとほぼ同時期に、銀行が正規の金融サービスとして事業を推進できる制度的な土台を固めたのである。

 さらに金融庁は、前述のプレスリリースにもあった通り、3大メガバンクによるデジタル通貨の実証実験を支援しており、複数の銀行グループが共同で発行する際の規制対応や実務上の課題を検証することを支持している。

 国と金融当局が安全性と信頼性を確保し、法的な道筋をつけたことで、「先行者利益」を活かして事業を立ち上げようという機運がメガバンク内で高まっていると考えられる。

 最後の理由として挙げられるのは、銀行が新技術やサービスの普及による収益の減少を補完し、将来の成長を支える新たなビジネスモデルを確立するという狙いだ。