ステーブルコインがもたらすのはメリットか、それともデメリットか?
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(小林 啓倫:経営コンサルタント)

いよいよ到来した「ステーブルコイン元年」

 今年は日本における「ステーブルコイン元年」であると言われている。ステーブルコインという言葉を聞きなれない方も多いと思うが、これはステーブル(stable、英語で「安定した」という意味)という名前が示す通り、価格が安定するように設計された暗号通貨を指す。

 暗号通貨は通常の通貨と違い、政府や銀行など中心で管理する存在がなくても成立するため、個人間や企業間での送金や決済が安価かつ迅速にできる。ただ、ビットコインなど一般的な暗号通貨では、その価格が大きく変動する。

 それは投資という観点からは魅力になり得るのだが、朝起きたらその価格が大きく変わっていた、というのでは決済や送金の手段としては安心して使用できない。

 そこでステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨と1対1で連動させる(つまり「1ステーブルコインをいつでも1米ドルに交換します」と約束する)などして、常にほぼ同じ価値を保つ仕組みになっている。

 この安定性をもたらす方法にはいくつか種類があるのだが、いずれにしても価格変動が少なくなるため、送金や決済の手段として、あるいは取引所での一時的な資金の避難先等となり得る。すでにUSDT(テザー)やUSDC(USドルコイン)といったステーブルコインが登場しており、これらはいずれも、1コイン=1ドルという法定通貨担保型のコインとなっている。

 話を戻すと、今年2025年は、日本においてステーブルコイン元年となったという主張がなされている。その背景には、2023年6月に施行された改正資金決済法による法整備と、2025年になってようやく実現した、ステーブルコイン本格運用の開始がある。

 2023年から振り返ってみよう。この年の6月1日、改正資金決済法が施行され、ステーブルコインが「電子決済手段」として法的に定義された。この改正により、法定通貨を裏付けとするタイプのステーブルコインについて、発行者と仲介者の役割が明確化され、利用者保護やマネーロンダリング対策の観点から必要な規制が整備された。

 そこでは発行者は銀行、資金移動業者、信託会社などに限定され、仲介者である電子決済手段等取引業者には金融庁への登録義務が課された。世界各国でステーブルコインの法規制が模索される中、日本はその定義と発行方法を具体的に明記した世界でも先駆的な法整備を実現したと評価されている。

 しかし実際にステーブルコインの運用を始めるためには、法律以外の準備も必要になる。

 たとえば、利用者財産の分別管理や監査の方法といった、ステーブルコイン取扱事業者に対する財務諸表監査の実務基準が、2025年1月に日本公認会計士協会からようやく公表された

 金融庁も、ステーブルコインの信用取引における価格評価ルールを整備する指針の案を2025年2月に発表するなど、制度の詰めを行う作業が今年に入ってからも続いていた。

 また発行者や仲介業者は、金融庁への登録申請や審査対応、システム開発、サービス運用体制構築などを進める必要があった。

 一方で、ステーブルコインは新しい決済手段であるだけに、ユースケース開発や実証実験を慎重に行わなければならない。しかも前述のように、ルールの細部がまだ決着していない状況下でだ。その結果、サービス立ち上げまでに長い時間が必要になったのである。

 要するに日本では、2023年に法律はできていたものの、実務面でのルール整備が遅れたこともあって本格運用がスタートしていなかった。それが2025年になって変化したことから、「ステーブルコイン元年」と呼ばれるようになったわけだ。