ステーブルコインが普及しないと考える3つの否定理由
一方、ステーブルコインが普及しないという強力な否定理由もいくつか存在する。まずは日本銀行が検討している「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」、いわゆる「デジタル円」との関係だ。
もし日本銀行がデジタル円を発行すれば、それは「日本政府が保証するデジタルのお金」になる。つまり、絶対に価値がなくならない「信用リスクゼロ」のデジタル通貨だ。そうなると、民間の銀行やスタートアップ企業が発行するステーブルコインよりも、「安全」で「信頼できる」と考える人が多くなることは避けられない。
政府が出すデジタル円が登場すれば、多くの企業や消費者は「だったらデジタル円で十分」と考える可能性が高い。
さらに、日銀がデジタル円をいつ・どのような形で出すのか(企業間だけなのか、一般の人も使えるのか)はまだ決まっていない。この「先行きの不透明さ」も、民間企業がステーブルコインに大きく投資することをためらう要因になっている。
次に、日本ではステーブルコインを発行・管理するためのルールが、まだ非常に厳しいという点が挙げられる。
ステーブルコインは通貨として機能するサービスであり、利用者が安心して使えるよう、多くのチェックや報告義務が課されている。特に日本の金融庁は安全性を重視するため、世界でもトップクラスに厳しいルールを設けている。
それは前述の通り、円建てステーブルコインへの信用を生み出す源泉ともなっているのだが、厳しいルールを守るためには、ステーブルコインの発行・運用企業は専門のスタッフやシステムを整える必要がある。その分コストが高くなり、ステーブルコインを扱うビジネスは「お金がかかる事業」になってしまう。
結果として、ステーブルコインを発行できるのはメガバンクのような大企業に限られ、中小のスタートアップ企業が参入しようとせず、結果的に需要はあっても供給側の盛り上がりに欠ける事態になりかねない。それだけならまだしも、競争が起きにくい市場になれば、結果的に技術の発展や利便性の向上も遅れがちになる恐れがある。
さらに日本では、特に消費者向けの市場において、すでに便利な支払い方法が整っているという点もステーブルコイン普及にとって向かい風だ。
ご存じの通り、SuicaやPASMOなどの交通系ICカード、PayPayやd払いなどのスマホ決済、クレジットカードなど、キャッシュレス決済手段がすでに広く出回っている。それらは前述の、諸外国に比べて低いキャッシュレス決済比率に対抗すべく、利用者にとって魅力的なサービスになるよう競い合っている。
しかも、これらは暗号通貨ではないため、ブロックチェーンなど暗号通貨関連の専門知識をまったく持っていなくても使うことができる。そこに新しい知識と準備が必要なステーブルコインがどこまで割って入れるか、予断を許さないと言えるだろう。