メガバンクがステーブルコイン参入を急ぐもう一つの事情
2つ目の理由として、銀行にとって長年の主要な収益源の1つであった決済ビジネスにおいて、その競争力を維持しなければならないとの判断が挙げられる。
従来の国際送金は、複数の銀行が順々に資金を移動させる「バケツリレー」方式が主流だった。この方式では、着金までに数日かかることもあり、手数料も数千円程度かかるのが一般的だ。
しかしステーブルコインを用いた決済では、ブロックチェーン上で直接送金することにより、送金速度が大幅に改善され(場合によっては数分〜数時間レベルで着金)、従来の国際銀行送金と比べて著しく短縮される可能性がある。
また、コンサルティング企業KPMG の報告では、ステーブルコインを用いた越境決済において「コストを最大で99%削減できる可能性」があると述べられており、この効率性が従来の銀行送金システムに対して大きな優位を持ち得ると考えられている。
もし世界中の企業や個人が、低コストで高速な暗号通貨決済に切り替えていったとしたら、メガバンクがこれまで決済サービスから得てきた多額の決済手数料収入は大幅に減少しかねない。
この収益減少の脅威に対して、メガバンクは「ただ傍観するのではなく、自らが新しい決済手段の提供者になる」という積極的な防御戦略を選択したのだろう。
自らステーブルコインを推進し、新しい決済インフラを企業に提供することで、従来の決済サービスが置き換えられても、その新しいデジタル決済市場で引き続きサービス提供者としての地位を維持できる。決済インフラにおける主導権を確保するための、攻めの一手というわけだ。
報道によれば、3大メガバンクが発行するステーブルコインは、まず三菱商事の社内決済に導入される計画だという。世界中に多数の子会社・関連会社を持つ三菱商事が、国際送金でこの仕組みを活用できれば、送金とその管理に伴う負担や時間、為替コストなどを大きく削減できると考えられる。
メガバンクにとってステーブルコインへの参入は、単なる最新技術の導入ではなく、銀行の核となるビジネスモデルの存続をかけた重要な攻防だ。