インフレを放置する高市政権の本音

 一方、政権の「本音」が連続利上げの回避にありそうなことも市場は理解している。1月までに+25bpの利上げが8割織り込まれている状況でも、ドル/円相場が高止まりしているのがその証左である。

 昨日公表された10月29〜30日会合の「主な意見」でも「利上げをおこなうべきタイミングが近づいている」と半ば利上げ宣言と見られる記述が見られているものの、ドル/円相場はむしろ円安へ振れた。金融市場が注目しているのは「次の利上げ時期」ではなく、あくまで高市首相のリフレ姿勢の確度である。

 早くから取り沙汰されているように、高市首相は「物価高をさらに加速させることがないよう戦略的に財政出動する」という「責任ある積極財政」を基本姿勢として繰り返している。

 わざわざ「責任ある」という枕詞を付ける理由は、それを付けなければ無責任だと批判される不安があるために他ならない。言い換えれば、金融市場のリフレ期待が暴走することを回避するための枕詞である。市場参加者はそこまで理解しているため、枕詞はほとんど意味をなさない。「怪しくない」と言えば言うほど怪しさが増すような状況である。

 また、高市首相は「財政健全化の物差しとしては債務残高のGDP比を引き下げることに重点を置く」とも説明する。過去の本コラムや拙著などでも繰り返し取り上げている論点だが、インフレで名目GDPが膨らむ状況では自然と「債務残高のGDP比」は改善する。

 いわゆるインフレ税の議論だが、これを尺度に財政健全化を追求するという宣言は「インフレは手放せない」と言っているようにも見えてしまう。

 少なくとも大前提として、リフレ期待の「本音」を勘繰る市場参加者は円金利上昇と円安の同時進行が続く展開について確信を強めただろう。

 結局、「建前」としての1~2回の利上げを容認したり、拡張財政に関わる表現を多少工夫したりしたところで、高市首相の「本音」がリフレ推進にありそうだという期待は変わりにくい。

 また、普段から金融緩和や拡張財政の有用性を執拗に説いてきた有識者をこぞって政策議論に招き入れていることも懸念事項である。

 こうした状況下、市場参加者は「本音」としてのリフレ期待を当て込んだトレードを止めるわけにはいかない。現時点では何を情報発信しても円売りや国債売りの材料に使われやすい。