高市政権がリフレに足をすくわれる日

 もちろん、「本音」は今後、変わるかもしれない。岸田政権や石破政権も、円安を起点とするインフレによって、実質所得環境が毀損する中で退陣を強いられた。「インフレは既存政権に不利」という事実は世界共通の鉄則であり、それは高市政権とて痛感しているはずである。

 円安と対峙し、これを抑制できない限り、必ず支持率が下押しされる時がくる。具体的な利上げペースを現時点で予想するとすれば、12月から1月に1回利上げした後、4月、そして10月と半年に1回程度の+25bpの利上げを容認する可能性はある。

 これを前提とすると政策金利は1.25%まで引き上がる。仮に3カ月に1回とすれば1.50%だ。日銀が推計する自然利子率のレンジ(▲1.0%~+0.5%)を前提とすると中立金利は「+1.0%~+2.5%」なので、3カ月に1度引き上げれば、少なくとも推計値下限の中立金利は上回り、引き締め的ではない金融環境が一応生まれる。

 問題は、そのペースの利上げで円安が収まるのかである。筆者はそう思っていない。

 過去一貫して強調してきたように、そもそも円安の主因を内外金利に求める分析に筆者は懐疑的な立場である。国際収支構造の変容を背景とする需給構造こそ円安相場の底流にあるとすれば、中立金利程度まで政策金利を引き上げても円安相場の反転は難しいように思える。

 もちろん、高市政権の「本音」が中立金利を大幅に上回る利上げ、すなわち本質的な引き締めに転じるのであれば、為替市場も大きな反応を示すかもしれない。しかし、各所に垣間見られるリフレ選好を踏まえる限り、高市政権がそれほどの利上げを所望するとは思えないし、そのように変心している時にはさらに円安が進み、世論による利上げ要請が強まっている可能性が高い。

「本音」が変化した頃にはもう遅いというわけだ。