バルカン政治家の伝統を継ぐヴチッチ大統領
ところで、“バルカン政治家”という言葉がある。とりわけ18世紀以降、バルカン半島はトルコのオスマン帝国とオーストリアのハプスブルク帝国の争いの場となった。両者に挟まれて巧みに立ち回るためには、時々の状況に応じて協力する相手を瞬時に切り替える必要があった。そうした才覚を持つ人物が、バルカン政治家と称される。
米国へ秋波を送る姿は、セルビアのヴチッチ大統領が典型的かつ伝統的なバルカン政治家であることを、端的に物語っている。大国の狭間に存在するからこそ、大国間の利害関係を利用することで、安定的に国家を運営する。民意との間で乖離がありつつも、自らが国益を確保するうえで適切だと考える路線を、ヴチッチ大統領は歩み続ける。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。
