クルマの繊細な制御ができて、車内のスペースも確保

 同乗したエンジニアによれば、車両を制御しているときは、前後左右のモーターのトルクをかける方向を変えているのだという。

 具体的には、前のモーターを後向きに、後ろのモーターを前向きに、トルクをかけると、クルマ全体を持ち上げる力が生まれる。逆方向に前後モーターでトルクをかけると、クルマ全体を押し下げる力が生まれるのだ。

 これを左右輪で別々に行うと、クルマが横に傾くロールを抑制できる。例えば、右コーナーでは、外側の前後モーターでクルマを押し下げ、内側の前後モーターでクルマを少し押し上げるといった具合だ。

 通常、クルマの運動性能はサスペンションが主体となるが、これをインホイールモーターで実現している。

 こうしたインホイールモーターによる運転制御と、右手で操作する新操作デバイスとの相性が良い。手の平や指先の感覚と、クルマの繊細な動きとのバランスが良いのだ。

 このように、インホイールモーターはクルマの運動性能を制御する面でのメリットがあるほか、車体にモーターを搭載しないことで車室が広くなったり、またはバッテリー搭載量を増やせたりというメリットもある。

量産されればコストも下がる?目標は2030年

 一方、デメリットはコストだ。

 前述のルノーの場合、ハイパフォーマンスEVであるため販売台数は限定的で、新車コストがある程度高くても事業として成立するかもしれない。だが量産効果としてインホイールモーターの価格が一気に下ることは考えにくい。

Astemoが開発中のインホイールモーター。「V03」に搭載される19インチ=写真右と小型車や軽自動車を想定する12インチ=写真左(写真:筆者撮影)

 量産効果の観点で注目されるのが、Astemoが今回公開した小型車・軽自動車向けの12インチサイズモーターだ。

 V03に搭載している19インチ型は油で冷やす油冷だが、12インチ型は空冷で出力は19インチ型の100kWに比べてかなり小さい13kWにとどめた。

 将来的に軽自動車でインホイールモーターが採用されると、19インチ型、また今回は展示がなく資料での紹介のみだった16インチ型(70kW)などの採用にも広がり、インホイールモーター全体のコストが下がることが期待される。

 Astemoはインホイールモーターの量産目標を2030年以降と定めている。