生粋のニューヨーカーが描いた90年代のNY

 プロになるほどの腕前だった野球の夢が絶たれたハンク、バーに入り浸って酒ばかり飲んでいるおっちゃんたち、威勢だけ良く内気なイギリス人に、金と自分のコミュニティのためなら引き金を引くことも厭わないロシア人や、正統派ユダヤ教徒たちという人種的な特徴を組み合わせながら織りなすスリリングな展開が本作の醍醐味だ。

 こんな人種が入り乱れる物語を描くことができたのは、本作の監督、ダレン・アロノフスキーがニューヨーク・ブルックリン南部マンハッタン・ビーチ地区に生まれた、生粋のニューヨーカーだからだろう。

 本作がニューヨークの物語であることは、冒頭のシーンからいくつもの属性をもつキャラクターたちが入り乱れる様に見ることができる。

 アメリカのどこにでもありそうなバーに集まってジョッキ片手にスポーツを観戦するおっちゃんたちは、典型的なアメリカ人【ニューヨーカー?】だが、そこで働くハンクはジャイアンツのチームのベースボールキャップを被っているだけでなく、服装や話し方、実直(バカ正直)な性格など、ことごとくカリフォルニア・バイブス(雰囲気)だ。

 そして、ハンクを迎えにくるガールフレンド、ゾーイ・クラヴィッツ演じるイヴォンヌは、ハンクとは正反対に官能と乱暴さが同居した東海岸っぽいキャラクターで、冒頭10分から、今後、どれだけ多様なキャラクターが登場するのだろうかと気になって仕方がない。

ハンクとイヴォンヌ

 前述したように、本作には多くのキャラクターが登場するが、なかでも最も魅力的なキャラクターは、正統派ユダヤ教徒たちだろう。