軍人の大量失脚の謎、2つの見方
さて、これだけの大量軍人の失脚の原因については、主に2つの見方がある。
中央軍事委員会の制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席と、習近平が対立しており、習近平のお気に入りを張又侠が排除したのが、苗華以降の芋づる式粛清だという見方だ。
2023年に失脚した魏鳳和、李玉超、李尚福らロケット軍系、軍工系軍人は、実は張又侠が選んだ人材を習近平が了承したもので、彼らは本音では台湾武力侵攻に消極的であったことから、習近平の信頼を失い、最終的には「汚職」と「不忠誠」などが理由で失脚することになった。これに張又侠が不満を募らせたので、張又侠が軍の掌握に動き、習近平派の軍人、つまり苗華や何衛東、王春寧らを全面的に排除した、という。
もう一つの見方は、魏鳳和らロケット軍や軍工系列から2024年以降の苗華、何衛東、林向陽ら福建省第31集団軍出身の軍人たちの失脚すべてが、習近平の軍に対する不信感から起きているという考え方だ。
習近平は自分でお気に入りの軍人を抜擢しておきながら、その後、忠誠心に疑いをもち、自ら粛清するというやり方を繰り返した。その結果、軍全体に習近平への不信感が膨れ、さらに習近平の親友として、習近平から請われて引退年齢をこえてまで中央軍事委員会副主席の任についた張又侠も、現在習近平に対し不信感を募らせ、対立関係が深刻化している、という見方だ。
だから、張又侠が軍を掌握しているともいえず、今のところは人事、指揮権を習近平が掌握している。だが、軍人たちが習近平を信頼し忠誠を誓っているとも言えない、という状況だ。
この結果、もっとも懸念されるのは、軍内政治と軍事指揮中枢の二分化現象、軍事委員会システムの麻痺だといわれている。つまり軍人は政治的権限から完全に排除され、軍はシビリアンたる習近平の判断だけに従わざるを得なくなる。その一方で、軍の兵士、兵器の運用、指揮はプロフェッショナルな軍人でしかできない。
本来、中央軍事委員会はシビリアンの習近平と制服軍人が協議して政治的判断と軍事力の可能性を総合的に判断、決定するためのシステムである。だが、このシステムがすでに機能せず、政治的判断と軍事力が二分化されてしまう可能性がある。
特に軍の人事を担う政治工作部のトップだった苗華が失脚し、軍の副主席の何衛東も失脚し、現在、このポジションが空白の状態で、誰が新たな軍の人事権を握るのか。