中国は「Kビザ」の新設でSTEM人材の獲得を狙うが、思惑通りに進むのか(写真:新華社/アフロ)
(福島 香織:ジャーナリスト)
中国で10月から導入されたKビザが国内外で物議をかもしている。
Kビザとは国内外のSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マスマティクス)の分野の優秀な若手外国人材(18~45歳)に向けて発行される就業・起業ビザで、よく米国のH1Bビザに類似するものと紹介されている。
だが、本当にそうだろうか。そして、このKビザに対して中国内外で強い反発が起きているのはなぜなのだろう。
米国のH1Bビザは、同じタイミングのこの秋、申請料が10万ドルという高額なものに引き上げられた。これは、申請料を高額にすることで、米国ハイテク人材の国内雇用を守る狙いがある。
もともと米国のH1Bビザは発行数も制限され、申請希望者は抽選でふるいにかけられたのち、米国企業の雇用が決まって初めて申請が可能になる。さらに、このビザで就職する外国人材の給与は現地の同業者と同等以上の水準を保証しなければならない。現地の米国人雇用を圧迫したり給与水準を押し下げたりすることがないように設計されている。
だが、中国のKビザは、中国内外の著名大学、研究機関のSTEM専門分野の学士以上の学位を持っていることや、そうした大学、研究機関でSTEM専門分野研究に従事した経験があるならば、中国内の企業や研究機関などで就職先を決めなくても、申請が可能だ。
ビザを取得して中国に入国後は、教育、科学技術、文化領域の交流、創業、ビジネス活動に従事することが義務づけられるが、中国内の企業・機関のインビテーションを事前に用意する必要はない。ビザの期限、入国回数、滞在期間、またビザ発行数の制限などについては明確に規定されておらず「より多くの利便が提供される」といったあいまいな表現になっている。
Kビザで中国に入国した外国高度人材は、何のハンデもなく、中国の高度人材市場で中国人の若者と就職先を取り合ったり、中国の若い企業家のライバルとなったりするわけだ。このことから、中国の世論は、Kビザ導入によって、中国の高学歴若者の就職難問題をより深刻にする悪政だと、大いに反発したのだった。
さらに米国のH1Bビザと中国のKビザを比較すると、ハイテク人材とその雇用に対する政策の対照性が、更なる反発を呼んだ。