「金太郎飴」な組織づくりで人材育成。家業から企業へ

 現在、雫石の新本社と工場で働く従業員は約20名。全員が正社員で、盛岡からの移転後もほぼ全員が辞めることなく継続して勤務している。以前の菊の司酒造を知る人たちからは、蔵がきれいになっただけでなく、会社の雰囲気や社員が明るくなったという声も多い。

「従業員は、事業譲渡当初から反発より期待のほうが大きく、創業家が去ってからは一層協力的になってくれました。一方で、私が当たり前に経験してきたビジネスマナーには問題があり、情報共有も少なかった。そして、そのことに疑問も抱いていない状況には愕然としました」

「酒造りはサービス業ではありませんが、インターネット販売が中心ではない私たちにとって、酒店さんに売っていただくこと、愛される会社であることが実績に直結します。まずは、従業員一人一人が会社の顔であるという意識を常に持ち、電話応対一つとっても誰もが最低限同じようにできる金太郎飴のような組織づくりが基本です。経営陣も従業員も、愛されるお酒・人・会社になるというビジョンを共有することで、家業から企業への脱皮を1年がかりで目指しました」

 また、自分が女性だからという意識は特にないそうだが、誰もが働きやすい職場環境や人材育成には気を配ってきたという。

「現在、男女比率は50%ずつ、10名の女性社員が働いています。もともと酒蔵は女性を受け入れない環境ではないんですが、以前は仕込みの際に蒸した米を移動するといった作業が女性にはとても重労働で、私も試しにやってみましたが相当厳しかった(笑)。そこで、新工場は機械化やDX化をできる限り推進し、男女差や年齢差なく作業ができ、長時間労働もない環境を実現しました」

蒸した酒米の移動はクレーンで行われる。酒の品質向上だけでなく重労働や長時間労働を減らすことにも寄与している(撮影:阿部 昌也)

 新たな環境のもと、2024年には30歳の女性を蔵人のリーダーに引き上げ、その体制で仕込んだ商品が岩手県新酒鑑評会で金賞・知事賞第3位を受賞するなど、若い人材も着実に育っている。

2025年3月28日に発表された岩手県新酒鑑評会で「純米大吟醸 菊の司 結の香仕込」が知事賞第3位を受賞。写真左がこの酒を担当した於本由芙紀さん(写真提供:菊の司酒造)