読売新聞の27日付朝刊と、28日付朝刊に掲載されたおわび記事(写真:共同通信社)
目次

(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)

言い訳のしようがない、近年では珍しいレベルの誤報

 政治分野における新聞の大型誤報が生じた。

読売新聞 朝刊1面 “記事は誤り” 池下衆議院議員に謝罪 | NHK    

 事態の概要は次のとおりだ。

 読売新聞は水曜日、8月27日の朝刊で、日本維新の会の池下卓衆議院議員について、公設秘書給与不正受給の疑いで東京地検特捜部の強制捜査が近日中に行われる旨を報じたが、強制捜査の対象となったのは日本維新の会の石井章参議院議員だった。

 読売新聞は、8月27日付け朝刊右上、すなわち新聞紙的にはもっともニュースバリューが高い記事を置く位置に、大きく「公設秘書給与 不正受給か 維新衆院議員 東京地検捜査」という記事を置いている。この記事の書き出しが池下議員で始まり、同議員の顔写真も添えられている。

 これは残念ながら言い訳しようがない、近年ではちょっと珍しいレベルの誤報というほかないだろう。

 なお、読売新聞はオンラインの記事を27日午前に削除し、その日の午後には池下議員の事務所を訪れ、誤報を謝罪したという。池下議員は抗議文を手渡している。

 読売新聞は本件を受けて「おわび」を掲載した。

27日1面「公設秘書給与不正受給か」 記事は誤報 おわびします:読売新聞オンライン

 なぜこのような誤報に至ったのだろうか。今後、こうした誤報は起きないのだろうか。

 はっきり言えば、わからない。

 上記、読売新聞の「おわび」には、「取材の過程で、池下議員と石井議員を取り違えてしまいました。捜査の対象を誤った記事を掲載することになり、正確な報道が求められる新聞社として、あってはならない重大な誤報だったと考えています」と記されているだけで、どこで確認漏れが生じたのか、どのような再発防止策が取られた/取られるのかということはまったく読み取れないからだ。

 こうした点に関する不満は当事者も抱えているようだ。池下議員は「おわび」が公開された後に、ブログ記事を公開した。

読売新聞の誤報と謝罪について - 池下卓(イケシタタク) | 選挙ドットコム  

 なお、念の為に言及しておくと、誤報は好ましくないが、報道に人間が関与する部分があるだけに、いつの時代も生じる可能性がある(機械化が進んだとしてもゼロにはならないだろう)。

 誤報が生じてしまった暁には、生じてしまった誤報をなかったことにはできないだけに、迅速に訂正、おわび、関係者への「適切な事後対応」が行われることが当事者に対する現実的な「被害」回復と媒体としての信頼回復の双方にとって重要だ。

 その意味では、今回の読売新聞の対応は、記事を削除し、当日中に、幹部が直接大阪の事務所に足を運び、謝罪し、翌朝朝刊1面に先の「おわび」を掲載したことは、新聞社の伝統的な危機管理の観点ではセオリー通りで、一見、及第点だ。

読売新聞東京本社の幹部に抗議文を手渡す日本維新の会の池下卓衆院議員(中央右)= 大阪府高槻市(写真:共同通信社)

 だが、新聞がメディアの主役だった時代はとうに終わっている。問題はネットとSNS中心の時代への対応だろう。

 ヒントは前述の池下議員のブログにもある。