夜の国会議事堂(写真:cap10hk/イメージマート)
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(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)

ゆとりくんと議論した新たな政治環境

「ゆとりくんチャンネル」でゆとりくんと政治について対談を行った。その前編が公開されている。

【政治研究者が暴露】なぜ与党は過半数割れた?西田亮介が語る“国会の盲点”とは? @YouTubeより

 年長の読者の方々には混乱を招くかもしれない。

 本来であれば「ゆとりくん」氏や「ゆとりくん」さんと敬称をつけて記すべきところを、収録中にご本人にも確認したところ「ゆとりくん」の呼称で良いとのことだったため、ここでもそのように記させていただく。

「ゆとりくん」は、株式会社yutoriの代表取締役社長である片石貴展氏のペンネームである(念のため断っておくが、これは公開情報だ)。1993年生まれということで30代前半とお若いが、同社は東証グロース市場に上場しており、れっきとした経営者である。

 初めてお目にかかったときには、てっきり20代の方だと思ってしまったが、実は政治の文脈でいえば、先の参院選で大躍進したチームみらいの安野貴博参議院議員と同世代で、いわゆる「ゆとり世代」ということになる。

 動画の内容については、ぜひ一度実際に視聴していただきたいのだが、ここでそのさわりを紹介してみたい。

 与党が国会で過半数議席を失ったという事態は、一般的には政治の停滞や無秩序の象徴として否定的に捉えられがちである。しかし、この状況を多角的に検証することで、むしろ日本の政治システムが昭和、平成の従来のモメントから解き放たれて、「令和の政治」を模索しようとしているのではないかという視点から議論が始まる。

 そこから、ゆとりくんの縦横無尽な質問に筆者が答えるかたちで動画は展開していく。彼の質問は的確で、政治の本質を突くものが多く、自分でいうのもなんだが非常に刺激的な対話となった気がしている。

 話題はその後、事前審査制や国会の委員会制度といった日本の政策形成過程へと移った。各省庁の所管する政策について専門的かつ詳細な議論が行われる委員会は、政策の質を担保する上で不可欠な機能を有している。

 与党が過半数を割ることで、野党が衆院では花形と目される予算委員会の委員長ポストをはじめとする重要なポジションを占める機会が、従来と比べて格段に増加した。これは多数決を前提とした数の論理による支配ともいえる形式的な審議から脱却し、各委員会で実質的な議論のための時間を十分に確保できるようになる可能性がある。

 野党が提出した法案や、与党案に対する修正案が真剣に議論される場が生まれることで、政策立案プロセスに多様な視点と専門的知見が組み込まれ、国民全体の利益に資する質の高い政策形成へと繋がるかもしれない。

 こうした令和の新たな政治環境は、政治家にも従来とは異なるスキルセットを要求することになるだろう。

 単純な党議拘束による多数決で物事を決定するのではなく、野党との対話を通じて信頼関係を築き、精緻な政策調整と幅広い合意形成を導き出す能力が、これまで以上に重要となる。これは結果として、政治の質的向上をもたらすかもしれないという議論を展開した。