「石破首相退陣へ」の大見出しが躍った読売新聞の号外(写真:YUTAKA/アフロ)
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)
まるで何事もなかったような現在の読売オンライン
先週の小欄では、読売新聞による東京地検特捜部の強制捜査対象先の取り違え誤報とその後の対応を取り上げた。
◎読売新聞「あってはならない重大な誤報」のおわびに欠けている意識、"1面で謝罪"でも通用しない現代の訂正の作法 【西田亮介の週刊時評】 | JBpress
販売部数でみても、規模でみても全国紙の雄の誤報騒動だけに、JBpress本体サイトの時間帯ランキングで1位を記録するなど広く関心を持って受け止められた印象で、ネット上では今も議論が続いているようだ。
先週の記事の骨子はこうだ。
報道から誤報を完全に払拭することは困難で、事後の適切な対応や謝罪のあり方が問われる。今回の読売新聞の対応は従来の新聞社の誤報対応としてはあまり類例を見ないほどに迅速で、検証も相応の分量があるように思われる。
課題はネット対応にある。読売オンラインのペイウォールの外に関連記事は掲載され、誰もが読むことができた。だが、読売オンラインには日本経済新聞社のサイトがトップに置いているリンクのようなおわび、訂正の特設サイトのようなものがなく、時間の経過とともに他の記事と同様にフローとして流れていく仕様になっているようだ。
実際、本稿執筆時点(2025年9月4日夕方)では、関連記事はユニークURLとしては生きているものの、読売オンラインのトップからは直接辿れなくなっており、まるで何事もなかったかのように見える。
この様子を目にした新聞紙を購読していない人が、たとえ読売新聞が紙面でどれだけ手厚い検証やおわびをしていたとしても、それらに気づくことはとても難しく、同社のみならず新聞業界全体に不信感を募らせたとしても無理はないだろう。そして、すでにそのような風潮はインターネット上に広がっている。
なお、一部ネットには、「訂正の分量が少ないのではないか」という批判が見られるが、これはまさに新聞紙が読まれなくなった時代を象徴する「誤解」だ。
筆者は読売新聞を今も紙で購読しているが、新聞紙面における28日朝刊1面の訂正とおわび、30日の1面訂正記事と検証記事(東京版では13面)の総量は誤報記事の面積を上回るように思われる。
新聞紙は1世帯当たり部数が0.5を割り、1000人あたり250人程度しか読まれていない時代だ。最大手で公称600万部の読売新聞でさえ、「マスメディア」性を自明視できなくなってしまっているか、自明視されなくなっている。
名実ともに、マスの関心はインターネット、なかでもソーシャルメディアと動画に向けられる時代になってしまったのだ。そのことを新聞社は認識できないか、日本経済新聞を除いてシフトできないままに2020年代半ばに至っている。
同社が本件をかつてないほどの重大ミスと捉えるのであれば、今からでも遅くはないから、ウェブサイトに特設サイトを設けて、トップに視認性の高い導線を設けたうえで検証記事や「おわび」をあとからでも読みやすく掲載するべきだ。