「棺には、沙也香が『出産後に食べたい』と話していた好物のお寿司、お気に入りの服や靴を棺に納め、たくさんの花で包みました。

 夫の友太君は、日七未のへその緒の半分を棺に納めていました。突然、伴侶を失い、誕生を楽しみにしていた我が子が重度障害に……、その胸の内は、私たちの想像を超えて、孤独と悲しみに満ちていたことでしょう。夫婦で築きたかった未来を失った彼は、言葉では言い表せない痛みの中、懸命に踏みとどまり、立派に喪主をつとめてくれました」

専門的なケアが一生必要な日七未ちゃん

 葬儀には、沙也香さんの死を悼む多くの人が参列しました。その中の一人、沙也香さんの大学時代の恩師は、あるものを持参し、水川さんに見せてくれたといいます。それは、大学の人間科学部で多元心理学を専攻していた沙也香さんが、2016年に執筆したゼミの論文でした。

「タイトルは、『愛知県の交通死亡事故数が5年連続ワースト1という意識調査』というものでした。9年も前のことなのですっかり忘れていたのですが、娘は当時から、多発する交通事故に問題意識を持ち、研究テーマに選んだようです。そのときはまさか、自分自身がその愛知県で交通事故の被害に遭うなど、想像もしていなかったでしょう」

沙也香さんの遺影と祭壇(遺族提供)

 日七未ちゃんが緊急の帝王切開で誕生してから3カ月、NICU(新生児集中治療室)では、今も24時間体制の看護が続いています。3時間おきのミルク、おむつ交換、体位の入れ替え、薬の投与、酸素濃度の調整、たんの吸引、そのすべてが、医療的管理のもとで行われており、退院後も継続的な介護が不可欠です。

 しかし、現在国内には1歳未満の重度医療的ケア児を受け入れられる施設がほとんどなく、退院後は「自宅介護」が前提だといいます。