私たち哺乳類も含め、動物の行動は日の長さなど季節のサインに敏感に反応している(写真:show999/イメージマート)
私たち哺乳類も含め、動物の行動は日の長さなどの季節のサインに敏感に反応している。季節に応じて繁殖を止めたり、休眠に入ったりする動物もいる。だが、動物たちが季節の移り変わりを把握するメカニズムは、これまでよく分かっていなかった。
長谷部政治氏(東京大学大学院総合文化研究科講師)は、ホソヘリカメムシにおいて、体内時計と脳内物質が連携する「季節適応」の精緻な仕組みを発見した。生命のリズムを支える「体内の季節感」について、長谷部氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター・ビデオクリエイター)
──どのようなテーマの研究をしているのですか。
長谷部政治氏(以下、長谷部):私の専門は動物生理学です。これは生物が持つ生理現象や生態内の現象を幅広く扱う大きな学問分野です。
私はその中でも、体内時計や休眠、季節ごとの適応反応など、動物が生き残るための多様な適応メカニズムを研究テーマとしています。
たとえば、温帯地域では季節ごとに環境が大きく変化しますが、動物たちは意識せずとも体内の状態を調節して環境に対応しています。こうした環境変化への適応メカニズムに、概日時計がどのようにかかわっているのかという点に強い興味を持っています。
──概日時計とはどのようなものなのでしょうか。
長谷部:概日時計は、「約1日(約24時間)」の周期的なリズムを生み出す体内時計の一種です。地球上の生物は、地球の自転による昼夜のリズムの中で生きており、朝や夜の到来を体内で予測することで効率よく生きることができます。
概日時計は遺伝子レベルで構築されており、複数の「時計遺伝子」が互いに制御し合うことで、24時間のリズムを体内で作り出しています。
──概日時計の遺伝子は、どのようなメカニズムで働いているのですか。
長谷部:動物の体内時計を作る時計遺伝子は、主に「正の制御因子」「負の制御因子」と呼ばれる2つのグループに分かれます。