刑事裁判は突然中断したまま、事故からすでに2年半が過ぎました。多恵子さんは今も、公判の再開をじっと待ち続けています。

「石田被告もまた、私と同じく、刑事裁判の再開を待つ身です。そんな状況の中、彼は危険運転致死罪の被告人として一番やってはいけないことをやってしまった。いったい、自分がどういう立場なのか、わかっているのでしょうか? この感覚をどう考えればいいのか、まったく理解できません」

交通事故ゼロの技術確立に取り組んできたエンジニアが悪質運転の犠牲に

 亡くなった佐々木さんは、大学を卒業後、本田技術研究所に約40年勤務し、長年、自動車の安全に関する研究を続けてきたエンジニアでした。自身でまとめたワークシートの中には、『2050死者ゼロ目標に感銘を受け、何とか実現させたいともがく日々』という記載も残されていました。

ホンダのエンジニアだった佐々木一匡さん(筆者撮影)

「主人は、歩行者の安全、同乗者の安全など、多方面からホンダの掲げた交通事故ゼロの目標に向けて、日々取り組んでいました。信念を持って仕事を続けてきた人が、このような危険運転によって一方的に命を奪われるとは、想像もしていませんでした。

 それだけに私は、主人を殺した者は、せめて人の心が分かる人間であってほしいとどこかで望んでいたのです。嘘でもいいから謝ってほしい、本人の口からその言葉を聞きたい、という気持ちもどこかにありました。主人なら、その相手がきちんと反省し、更生してくれればそれでよしとするのではないか、そういう人だったので、複雑な思いでした。

 でも、今回のことでそんな思いは打ち砕かれました。こんな人間に殺されたのだと思うと、本当に主人が不憫でたまりません」