米アマゾンがサンフランシスコに開設したAIロボティクス・ラボの前を動き回るロボット(2024年8月20日、写真:AP/アフロ)
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 米アマゾン・ドット・コムが、物流網の自動化を新たな次元へと引き上げている。同社は2025年6月30日、自社施設で稼働するロボットが100万台を突破したと発表した

 これは、同社の物流現場で働く従業員数に迫る規模。人間とロボットの数が逆転する転換点が目前に迫っている。

 同時に、ロボット群全体の動きを最適化する新しい生成AI基盤モデル「DeepFleet(ディープフリート)」を導入。

 配送の迅速化とコスト削減を加速させ、人間とロボットの協働を次のステージへと進めようとしている。

AIがロボット軍団を統率、移動効率10%改善

 アマゾンが新たに導入した基盤モデルのDeepFleetは、いわば「ロボットのためのインテリジェントな交通管理システム」だ。

 広大な物流施設内を無数のロボットが行き交う様を、混雑した都市の交通網になぞらえ、AIが最適なルートをリアルタイムで指示。

 これにより、ロボット同士の渋滞を緩和し、移動時間を10%短縮することに成功したという。

 この技術革新は、顧客への恩恵に直結する。

 ロボットの移動効率が上がることで、注文処理から発送までの時間が短縮され、より迅速な配送が可能になる。また、運用コストやエネルギー使用量の削減にもつながる。

 アマゾンによると、現在、全世界の同社配送の75%が、何らかの形でロボティクスの支援を受けており、DeepFleetの導入はこの流れをさらに加速させるものとなる。

 記念すべき100万台目のロボットは、日本のフルフィルメントセンター(発送センター)に納入された。

多様なロボットが協働、労災防止から生産性向上まで

 アマゾンのロボット戦略は、2012年の米キバ・システムズ(Kiva Systems)買収に端を発する。

 棚ユニットを持ち上げて運ぶ搬送ロボットから始まった自動化は、10年以上の研究開発を経て、今や多種多様なロボットが活躍するエコシステムへと進化した。

 1トン以上の重量物を運ぶ「Titan(タイタン)」、従業員を避けながら完全自律走行する「Proteus(プロテウス)」、AI画像認識で個々の商品を高速仕分けするロボットアーム「Sparrow(スパロー)」など、用途に応じたロボットが人間の作業を補助する。

 近年は、従業員の負担軽減と安全確保への取り組みが顕著だ。

 2023年には、二足歩行の人型ロボット「Digit(ディジット)」のテストを開始した。

 この人型ロボットは、現時点で施設内で空のコンテナを回収する作業を担っている。

 アマゾンは、こうした反復的で身体的負担の大きい作業を任せることで、労災リスクを軽減できるかどうかの検証を進めている。

 2025年5月には、触覚センサーを搭載し、繊細な商品をピッキングできる新型ロボット「Vulcan(バルカン)」を発表。人間が届きにくい高所の棚での作業を代替させ、作業環境の改善を図る。

 こうした自動化の進展は、目覚ましい生産性向上をもたらした。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の分析によると、施設当たりの平均従業員数は過去16年で最低水準に減少する一方、従業員1人当たりの年間荷物処理数は2015年の約175個から、現在では約3870個へと22倍以上に増加している。

 最新鋭の設備を導入したルイジアナ州の拠点では、注文処理コストが25%削減されたという。