テキサス州オースティン市内を走るテスラのロボタクシー(6月22日、写真:ロイター/アフロ)
米電気自動車(EV)大手テスラは2025年6月下旬、ハンドルを握る人間がいない「完全無人運転」で新車を顧客の元へ届けた。
この試みは、同社が目指すロボタクシーサービスやカーシェアリングサービス構想の実現に向けた技術力を示すとともに、販売不振といった同社が直面する課題を技術力で乗り越えようとする姿勢の表れともみられる。
運転席は無人、公道自律走行で納車
無人納車は6月27日、米テキサス州オースティンで実施された。
テスラの巨大工場「ギガファクトリー」から出荷された多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」は、運転席も助手席も無人のまま、市内の高速道路や住宅街を走り抜け、購入者が待つ集合住宅へと自律走行で到着した。
イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)はX(旧ツイッター)で、「車内には誰も乗っておらず、遠隔操作も行われていない。完全な自動運転だ」と成功を宣言。
公開された動画では、車両が時速72マイル(約116キロ)で他の車が行き交う高速道路をスムーズに走行する様子が映し出された。
納車された車両は、工場で生産される市販モデルと全く同じ仕様だとテスラは説明しており、特別な機材に頼らないソフトウエア主導の技術革新を印象付けた形だ。
狙いは「技術のテスラ」のアピール
この派手な演出の背景には、テスラが現在置かれている厳しい状況がある。今年に入り、特に欧州市場などで販売台数が前年割れするなど、成長に陰りが見える。
中国・比亜迪(BYD)をはじめとする競合メーカーが、より手頃な価格帯で新型EVを投入し、市場競争は激化の一途をたどる。
加えて、マスク氏自身の扇動的な政治的発言などが、一部の消費者の反発を招き、ブランドイメージの毀損も懸念されてきたと、米CNBCは報じている。
テスラは今回の無人納車を、こうした逆風を跳ね返すための起爆剤にしたい考えだ。
先進的な自動運転技術を改めて世界に示すことで、「未来を創造する企業」としてのテスラの価値を再認識させ、投資家や顧客の信頼をつなぎ止めたいという狙いがあるとみられる。