イランの「一人負け」で政治体制が揺らいでいる(写真:ロイター/アフロ)
目次

イスラエル、そして米国によるイラン攻撃で急騰した原油価格は、「停戦合意」で一転して急落した。需給の状況からは年末にも50ドル台になるとの見方がある。だが、事実上の「一人負け」によりイランの体制が転換する可能性が高まっており、中東情勢の混乱により原油価格は再び急騰するリスクがくすぶる。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週始めに1バレル=78ドル台と5カ月ぶりの高値となったが、その直後に急落し、65ドル前後で推移している。中東地域の地政学リスクへの懸念が大幅に後退したことが主な要因だ。

 まず原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。

 ブルームバーグは6月26日「ロシアは次回(7月6日)のOPECプラスの会合で8月分の追加減産を受け入れる用意がある」と報じた。

 OPEC(石油輸出国機構)とロシアなどの大産油国で構成するOPECプラスはこのところ増産に舵を切っている。5~7月は日量41万1000バレルと当初計画の3倍にあたる増産を決めた。だが、実際の増産は半分以下の規模にとどまっており、原油価格はそれほど下がっていない。

 原油価格を安定させたいOPECプラスにとってイランは悩ましい存在だ。

 トランプ米大統領はイラン産原油の購入を理由に中国の独立系製油所などに制裁を科してきたが、24日、自身のSNSに「中国はイランから原油を購入することができる」と投稿した。市場では「トランプ氏がイランへの制裁を緩和する」との観測が生まれ、原油価格は下落した。

 現時点で制裁の緩和が決定されたわけではないが、米国とイランの核問題を巡る協議が再開され、合意が成立すれば、イランへの制裁は緩和される。

 イラン産原油の輸出が増加することになれば、OPECプラスの増産戦略に影響を及ぼすのは必至だろう。

 原油価格はイスラエルのイランへの攻撃開始以前の水準に戻ったが、今後、どのような展開になるのだろうか。