吉原者が土地の購入を公的に禁じられたきっかけ

 今回の放送では、蔦重が日本橋に進出したくても、そもそも家を買えないという事態に、二代目の大文字屋市兵衛が「うちの親父が暴れさえしなきゃねえ」「親父があんなこと言い出さなきゃ……」とこぼす場面が繰り返された。

『べらぼう』では、初代の大文字屋市兵衛が急逝するが、後を継いだ二代目の大文字屋市兵衛も顔がそっくりという設定で、ともに伊藤淳史が演じている。

 途中から見た人のために説明しておくと、初代の大文字屋市兵衛が神田に屋敷を購入しようとするも名主から「遊女屋に土地を売った前例がない」と拒絶されてしまう。怒って奉行所に訴えたところ、「四民の外にて、穢多(えた)に準じ」と言われて「吉原者は士農工商に含まれない最下層の身分である」という理由で、今後一切の江戸市中の土地の購入を禁じられることとなった。

 初代の大文字屋市兵衛が主張したばかりに、結果的に、吉原者への差別的な扱いを奉行所が「是」とする──という最悪の結末に至ってしまった。二代目の大文字屋市兵衛からすれば、父の行動が結果的に蔦重の日本橋進出の妨げにもなり、申し訳なく思ったのだろう。

 この大文字屋市兵衛による騒動は、安永元(1772)年の土地の売買トラブル裁判において、吉原の楼主に対して奉行所から出された実際の判決がもととなっている。たとえ財力があっても乗り越えられない、理不尽な壁があった。