「大災害の時代はすでに始まっている」
──日本という災害列島の上で生きる人々に、メッセージをお願いします。
木村:日本は、自然に恵まれた国です。山があり、海があり、四季折々の美しい風景と、おいしい食べ物にあふれた豊かな国。なぜこのような自然の恵みを受けられるのか。
それは、日本列島の下にある、地球内部のダイナミックな活動のおかげでもあるのです。頻繁に発生する地震や火山の噴火、急峻な河川が日本の複雑で豊かな地形を形づくってきました。つまり、私たちの生活の豊かさは、自然の恵みと同時に、地球の厳しさの上に成り立っているのです。
個々人の人生では、大災害に遭遇する確率はそれほど高くないかもしれません。しかし、地球の時間軸で見ると、日本の地形は常に動き続けています。地震に関しては活動期に入っており、また気候変動の影響によって風水害も増加傾向にあります。「大災害の時代」がすでに始まっていると言えるでしょう。
私たちは、健康を守るために体調管理をしたり、犯罪に遭わないように防犯対策を講じたり、交通事故を避けるために交通ルールを守ったりしています。日々の暮らしの中で、さまざまなリスクに対して危機管理を行っているはずです。防災も、それらと同じ「危機管理」の一つとして考えていただきたいと思っています。
もちろん、毎日防災に取り組む必要はありません。年に一度でも、数回でも構いません。
例えば、ニュースなどで地震や台風の話題に触れたときに、「自分の家には備蓄があるだろうか」「いつも飲む水やお茶をもう少しだけ多く買っておこうか」「今この場で災害が起きたらどう行動すべきか」「食器棚の上にある鉄板を物置にしまおうか」「ベッドをエアコンの室内機から少し離そうか」と少しだけ意識を向けて、簡単なことをやってみる。最初の一歩としては、それで十分です。
何も準備していない「ゼロの状態」で災害を迎えてしまえば、命を守るのは難しくなります。自然災害はめったに起きませんが、ひとたび発生すれば命や暮らしに直結する深刻なリスクとなり得ます。
これからの時代を生きる私たちにとって、災害は「いつか来るかもしれないもの」ではなく、「いつ起きてもおかしくない現実の危機」として受け止める必要があります。日々の暮らしの中で、災害に対する備えを思い出す機会を少しでも持っていただければと思います。
木村玲欧(きむら・れお)
兵庫県立大学環境人間学部教授
1975年、東京都生まれ。早稲田大学卒業、京都大学大学院博士後期課程修了(情報学博士)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教などを経て現職。専門は防災心理学、防災教育学、社会調査法。内閣府 防災教育チャレンジプラン実行委員会委員長、東京大学地震研究所 地震火山観測研究推進協議会 防災リテラシー部会部会長などを歴任。
関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。