熊本地震で激甚被害を受けた益城町(写真:共同通信社)

 南海トラフ巨大地震の今後30年以内の発生確率は80%程度、首都直下型地震の今後30年以内の発生確率は70%程度と見積もられている。2024年8月8日に発生した日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震では、同日、気象庁は南海トラフ地震臨時情報を発表した。

「今日明日起きても不思議ではない」災害に、私たちはどう向き合えばいいのか。防災心理学を専門とする木村玲欧氏(兵庫県立大学教授)は、「ゼロの状態で災害に立ち向かう危険性」を警告する。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──巨大地震に備え、私たちは平時からどのような意識で生活すべきでしょうか。

木村玲欧氏(以下、木村):まず、理解しておくべきは、地震は「天気予報のように予知できない災害」であるという事実です。

 残念なことに、現代の科学では「何月何日に地震が起きる」といった日付を限定した地震予知は不可能です。この予知だと「何月何日」以外には地震が起きないことになりますが、そんな予知はできません。

 地震発生の可能性は、今日も明日も「何月何日」も常にあります。この記事を読んでいる今、この瞬間に巨大地震が起きてもおかしくありません。

 だからこそ、私たちは常に「地震が起きても大丈夫なようにしておく」ことが重要になります。備えが、命と暮らしを守る唯一にして最大の対策だと、私は考えています。

──防災心理学の観点から、地震発生時に、冷静に判断、行動するためのコツはありますか。

木村:逆説的ですが、「人は災害時に冷静ではいられない」と知っておくことが、冷静な判断、行動をある程度可能にします。人間の本性を知っておくことで、災害への備えを進めることができるのです。これは、過去に災害を経験した多くの方々の証言からも明らかになっています。

 災害時、人は一気に環境が変化する中で、大量の情報を処理しなければなりません。その結果、「頭が真っ白になる」「考えがまとまらない」「視野が狭くなる」といった状態に陥ります。これを専門用語で「失見当」と呼びます。誰もが例外なく、そうした混乱状態に陥る可能性があります。

「災害時は平常心で行動できる」という前提は捨ててください。災害時にはゼロから何かを考えて行動するようなことはできないのです。

 災害が起きるまでに身体にやるべき行動を染み込ませておくことが重要です。つまり、頭で考えなくても身体が反応するよう、日ごろから基本動作を訓練しておくのです。揺れを感じたら、反射的に頭を守れるようになるまで、徹底した訓練をしてほしいと思っています。

 防災訓練が大切とされる理由はここにあります。勉強でも運動でも、日々の積み重ねが本番に活きます。災害対応も全く同じです。ゼロの状態から即座に命を守る行動をとることはできません。だからこそ、日常の中に「備え」を取り入れておく必要があるのです。

──今後の災害リスクについて、どのように見ていますか。