発電能力の急増で待ったなし、送電網の拡張と高度化
爆発的な増加が見込まれる電力需要に応えるためには発電所の増設が不可欠ですが、それだけでは問題は解決しないでしょう。というのも、発電能力に送電網が追いついていかないと、いくら発電を増やしても必要な場所に十分な電気を届けることができないからです。
このため、トランプ大統領はエネルギー供給と安全保障の観点から「送電網の信頼性と安全性を強化する大統領令」に署名し、電力網の拡張と高度化へと大きく踏み出しました。
米国の送電容量の増加ペースは年平均約2%程度に留まり、電力需要や発電能力の増加ペースに大きく見劣りするとされています。また、ホワイトハウスによれば、全米の送電網に設置された約8000万台の変圧器は使用年数が平均で40年を超えるなど、設備の老朽化が深刻で大規模な更新、高度化が待ったなしの状況となっていると伝えられています。
このため、今後は積極的な電源開発と歩調を合わせる形で、送電ロスを抑えながら長距離で大量の送電を可能にする「高圧直流送電」や、AIを始めとするハイテクを活用して電力供給を最適化させるスマート・グリッドを活用した「次世代の送電網」の整備・構築が、国家プロジェクトとして動く可能性が高まっています。そして、クアンタ・サービシーズ社のような米国のスマート・グリッド関連銘柄の株価は、ここもと堅調な推移を見せています(図表4)。
【図表4:クアンタ・サービシーズ社の株価推移】

(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
現在、送電周りの主な技術革新としては、①発電機から出力される直流を電圧の変更が容易な交流に転換するコンバーター、②送電ルートの変更やトラブル時の遮断など安定的な送電網の運営に不可欠な高速スイッチング・デバイスや半導体、そして、③ロスの少ない長距離送電を可能にする高圧直流送電のためのケーブルや変圧器の開発、などで新製品の開発競争が加速しているようです。
そして、こうした技術開発や生産投資に前出のグリーン・バンクによる資金供給が波及するなら、米国における送電網の高度化と拡張の動きが更に加速することが期待できそうです。
【まとめ】
▶巨大な版図(はんと)を誇った元朝の初代皇帝フビライ・ハン(クビライ・カァン)は、26年の歳月をかけてモンゴル帝国の首都となる巨大都市「大都」を現在の北京の地に建造しました。しかし、1368年に元が明に滅ぼされたことで大都は陥落し、モンゴル王朝の首都は破壊され地中に埋められました。そして、今でも故宮(紫禁城)の地下には、モンゴル皇帝たちが暮らした大宮殿の遺跡が眠っているとされています。
▶トランプ政権は前政権による気候変動対策を破壊し、その瓦礫の上にトランプ流のエネルギー政策を打ち立てようとしているように見受けられます。こうしたエネルギー政策の急旋回は、異民族の前王朝によるレガシーを破壊し、地中深くに埋めた上で新たな施政をしいた、中世中国の王朝交代を彷彿とさせます。そう考えると、米国内の分断の根深さを思わずにはいられません。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
※個別の金融商品や銘柄を勧めるものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いします。