米カリフォルニアの原子力発電所とソーラーパネル(写真:Wirestock Creators/Shutterstock.com)
トランプ大統領は政権発足後にハイペースで大統領令を連発し、前バイデン政権の目玉政策である気候変動対策を次々と反故にしてきました。中でも、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーへの補助金の廃止は、イーロン・マスク氏のビジネスを直撃する可能性が高いこともあって、二人の決別を引き起こした可能性が報じられています。
前バイデン政権時代のレガシーともいうべき気候変動対策はトランプ政権により葬り去られつつありますが、ここへ来て気になる動きが表面化しつつあります。というのも、前政権が用意した約4120億ドル(約59兆円)もの巨額資金が、トランプ流の経済対策に流用される可能性が高まっているのです。
(白木 久史:三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト)
トランプが破壊するバイデン時代のレガシー
前バイデン政権は2022年8月にインフレ抑制法(IRA: Inflation Reduction Act)を施行させ、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で40%削減、約4000億ドルを再生可能エネルギーなどに投じる米国史上最大規模の気候変動対策を実行に移しました。
しかし、化石燃料の有効活用による米国経済の活性化を目指すトランプ大統領は、新政権発足後に「国家エネルギー緊急事態」を宣言、あわせてIRA関連の補助金や規制の見直し・撤回を命じる大統領令に署名、①EV購入補助金の撤廃、②太陽光発電を始めとする再生可能エネルギー関連の補助金の停止、③IRAに基づく資金支出を即時停止、④各省庁への関連する環境規制の撤回・改定計画の提出を指示し、前政権のレガシーを破壊して見せました。
白木久史(しらき・ひさし)三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト 都市銀行で資金為替ディーラー、信託銀行やロンドンの現地運用会社で株式アナリスト及びファンドマネージャー。2007年に大和住銀投信投資顧問(現三井住友DSアセットマネジメント)入社、日本株ファンドマネージャーとして中東産油国の政府系ファンドを担当。15年から米国現地法人社長、22年から現職。同社サイトでコラム「マーケットの死角」を連載
冴えない気候変動関連銘柄の値動き
トランプ政権下で大統領令は早速実行に移され、5年間で計50億ドルのEV充電インフラへの助成金は停止され、来年度予算にはEV購入者への税控除の終了や、太陽光発電への補助金廃止などが盛り込まれることになりました。
そして、5月22日には米下院が再生可能エネルギーへの補助金の廃止を含むトランプ大統領の税制・歳出法案を可決したことを受け、米国の太陽光発電設備大手のサンラン社など関連銘柄の株価は、急落することとなりました(図表1)。
【図表1:サンラン社の株価推移】
(注)データは2024年9月3日~2025年6月17日(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
こうしたホワイトハウスの政策転換は、テスラ社でEVや太陽光発電を手掛けるイーロン・マスク氏としてもある程度は予想できたとはいえ、心中穏やかではいられなかったように思われます。