ヘイトを常態化したトランプ大統領
レビット氏は米市民の代わりに質問をしている記者を公然と貶める愚行を犯し、政権関係者の忠誠心が国民ではなく、トランプ氏個人に捧げられていることを自ら示したようなものである。その姿勢はまるでヒトラーに忠誠を誓ったナチスのようで、ネット民がレビット氏をそれと重ねた「ナチス人形」とする表現は、この上なく彼女に相応しい。

また、レビット氏は記者を馬鹿呼ばわりした直前、ロサンゼルスで先週続いたデモ隊と当局の衝突について、民主党にその責任を全てなすりつけてもいる。
米国ではこの10年で、政治家に対する暴力行為が急増したとされる。4月には、ペンシルベニア州のシャピロ州知事(民主党)の公邸が、トランプ支持者によって放火されるという事件も起きた。
トランプ氏が初当選した2016年の大統領選で、同氏はそれまで成熟した政治家には考えられなかった、政敵や弱者に対するあらゆるあからさまなヘイトを駆使した選挙戦を戦った。2021年1月、トランプ氏は2期目を狙った大統領選の敗北を受け入れず、同調した支持者らが議会議事堂を襲撃し死傷者を出すという前代未聞の事態も引き起こしている。トランプ氏は2期目に入ると即座に、この事件で逮捕・訴追された暴徒ら約1600人に恩赦を与えている。
今回ミネソタ州で民主党議員とその家族が凶弾に倒れたのも、元はと言えば気に入らないことは暴力や暴言で解決するという、トランプ氏とその支持者らによるヘイトの常態化にその要因があるとも考えられる。
米国がナチスのような独裁政権や王政に変わることに、14日の反トランプデモに参加した数百万の米国民はNOを突きつけた。6月17日現在、依然としてトランプ氏の不支持率は支持率を上回っている。
議員の殺傷事件が起きたミネソタ州では、ウォルズ知事が父の日を前に父親を失ったホートマン議員の子女や、父の日を返上して犯人逮捕に尽力した捜査関係者に心を寄せることを忘れなかった。
事件発生直後、ウォルズ氏は声明で「(米国は)銃を突きつけて意見の相違を解決するような国ではない」「私たちはあらゆる形態の暴力に対し、団結して立ち向かわなければならない」と述べている。
米国民がホートマン議員の死を無駄にすることなく、またトランプ政権のヘイトに立ち向かう心ある政治家や市民らが声を上げ続けることに、希望をつなぎたい。
楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。