「No Kings」デモに全米で数百万人が参加

 陸軍関連の式典会場で垣間見られたトランプ氏の表情は、悲願とも言われた軍事パレードを自身の誕生日に特等席で観覧できた割には、どこか憮然(ぶぜん)とした雰囲気を醸し出していた。世間からの注目が大好物なトランプ氏だが、当日メディアの話題をさらったのは当のトランプ支持者と見られる男による議員殺害であり、トランプ氏にとってははた迷惑な話だったかもしれない。

 同日、パレードよりメディアの注目を集めたのは銃撃事件だけではない。全米およそ2000カ所とも言われる各地で「No Kings(王はいらない)」と題された、大規模な反トランプデモが行われた。参加者は全米で400万〜600万人と推定されている。

「No Kings」のデモには全米で数百万人が参加したとされる(写真:AP/アフロ)

 主催者はトランプ氏による強権政治に反対するこの大規模デモを、わざわざ軍事パレードと同日に当てた。トランプ氏の「誕生式典」を矮小化するためだ。この目論見は成功した模様で、米ニューヨーク・タイムズ紙は当日のメディアは議員殺傷とNo Kingsデモ、その上イスラエルとイランの間に高まる軍事緊張もあり、米陸軍の式典どころではなかった放送局もあったと報じている。

 ホワイトハウスは式典の参加者を25万人としているが、AP通信は当初予測の参加者20万人にすら遠く及ばなかったようだと伝えた。要因として、当日の蒸し暑さに加えて雷雨予報という悪天候をあげている。英ガーディアン紙はパレード開始後1時間ほどで大衆がソワソワし始め、帰宅の途に着き始めたと書いた。同紙はまたある若者が式典について「ちょっとダサい」と評した声も伝えている。

「No Kings」のデモは全米に広がった。写真はフィラデルフィア(写真:AP/アフロ)

 先のミネソタ州議員襲撃事件の犯人は、犯行に使用した車両の中にNo Kingsデモのチラシも残していた。このことから当局は、当初逃走中だったボルターがミネソタでも予定されていたデモも標的にするのではないかとして、主催者に中止を呼びかけた。それに応じて複数のイベントなどがキャンセルされたにもかかわらず、当局発表で2万5000人、主催者発表では8万人もの人たちが州議事堂に集まったとされ、反トランプ機運の高さを見せつけた。

 トランプ政権に多数の人たちがNOを突きつける背景は様々だが、わかりやすい例がホワイトハウスにあった。トランプ氏は軍事式典に先駆け、もしワシントンで式典に対抗するようなデモが起これば武力で対峙するとして、ロサンゼルスで起きたような軍の投入によるデモ鎮圧を示唆していた。

 式典直前、ホワイトハウスの会見でこの事についてある記者が「軍式典に関する平和的な抗議活動は容認するのか」と質問した。これに対しキャロライン・レビット報道官はその場で「大統領は平和的な抗議活動を支援するに決まっている」と一蹴した上、あろうことか堂々と「何て馬鹿な質問なのか」と暴言を吐いた。

 史上最年少の27歳で大統領報道官となったレビット氏は、ブロンド碧眼(へきがん=青い目のこと)のかわいらしい顔に似つかわしくない乱暴な物言いで、しばしば物議を醸す人物だ。立場もわきまえずトランプ氏ばりに民主党や既存メディアへの憎悪をむき出しにし、記者団に対する度重なる喧嘩腰の暴言で、SNSなどでは「ナチス・バービー」の異名を取る。

 先の記者の質問が愚問であると言うのなら、レビット氏の回答はそれ以下である。一般企業においても広報担当者はその社の顔とも言え、こうした攻撃的な態度はヘイトにまみれた現在の米政権をそのまま映す鏡とも言えるからだ。

 ちなみに質問者が黒人の女性記者でもあったことから、ネット上には白人至上主義的なトランプ政権関係者のヘイト発言として驚くべくもないという意見も散見する。