現役時代をリアルに知る記者はほぼ皆無
一般紙では、現役時代の勝負強い打撃やヘルメットが脱げるほどの豪快な空振り、ダイナミックで華麗な守備が紹介されているが、意外にも74年までの現役生活をリアルに取材した記者による記事が見当たらなかった。
93年の2度目の監督時代以降の番記者がほとんどで、古参の一人、産経新聞客員特別記者の清水満氏も巨人担当は1978~86年と長嶋氏の引退後だった。朝日新聞の評伝では、スポーツ報知と朝日新聞で長く巨人を担当した西村欣也氏(故人)が聞いた「長嶋茂雄をずっとやっていくのも大変なんですよ」という長嶋氏本人のつぶやきを紹介しているが、その西村氏の担当歴も引退後だった。

スポーツ紙に目を向けると、スポーツ報知に73~76年と現役終盤に巨人を担当した玉木雅治氏の追悼記事が載る。珠玉のエピソードは引退直後の日米野球時、長嶋氏を取材するために古い宿の最奥にある長嶋氏の部屋へ忍び込み、目を覚ました長嶋氏から取材をするという時代を感じさせる内容だった。
一方、玉木氏は取材対象との距離の近さから長嶋氏の実像に迫り、華やかさの裏で親友と呼べる存在がいなかったという孤高の存在だったことを書いている。また、日刊スポーツの97、98年巨人キャップだった田誠記者の記事には「野球に関しては何を書かれてもいいんです。野球以外やプライベートは怒るけどね」と監督退任の誤報を水に流してくれた場面が明かされていた。
では、時代を映し出す一般紙の社会面の一行目はどうだったか。
美空ひばりさんの死を、昭和の終焉になぞらえた朝日新聞のこの日の社会面は、世代やスポーツ界を超えて日本中を魅了したと紹介し、「野球で築いた数々の功績と、人々に残した記憶はまさに『不滅』だった」と書いた。
毎日新聞は、「輝かしいスター性で昭和のプロ野球と日本社会を照らした『ミスタープロ野球』が長い眠りに就いた」と綴り、産経新聞は「現役引退後も世紀をまたぎ、時代を超え、国民的スターであり続けた」とたたえる。読売新聞は3日付夕刊社会面で「野球界の巨星」の見出しとともに、「華麗なプレーで明るい人柄で人々を魅了した・・・(中略)・・・スポーツの枠を超えて愛され、唯一無二の存在だった」と悼んだ。