優しさを超えた覚悟
ブレグマン氏は、アクティビストになることは、その時代の常識とは大きく異なることを主張することになるため、非常識だと評され、場合によっては家族や周りの人とも断絶してしまう覚悟が必要だと語る。その時代の価値観における「良い人」「善良な人」「優しい人」というディスクリプションには当てはまらない。このパラドックスも重要なポイントだ。
「自分のやりたいことは何だろうと自問自答しているヒマがあったら、人類にとって重要な課題に取り組め。社会課題について論じるくらいなら、行動し、結果を出せ。」
これがブレグマンからの明確なメッセージである。優しい世界を作るには、周りから後ろ指を指されようがなんだろうが、やるんだよ、という毒舌だがユーモアを交えた文体で、読者を焚き付けてくる。
ブレグマン氏が前著『Humankind』の日本語版刊行に合わせて来日した際、私は小グループで彼と意見交換する機会を得た。その時、私が名乗るやいなや、ブレグマンは「Are you an activist?」(あなたはアクティビストですか?)と私に尋ねた。そんなことは考えたこともなかったので面食らった。本書は、その時の印象から一直線につながって私に届いている。
ニューヨークタイムズには「マルコム・グラッドウェルを政治的に先鋭化した感じ」と評されたそうだが、大きなテーマを扱い、一般読者を楽しませつつ常識を覆していくという点では確かに比肩する。本書の終盤でブレグマンは3つの「S」に当てはまる社会課題をいくつか挙げている。「社会課題」と聞いてピンとくる人には必読の書だ。日本語版が待ち遠しい。

エール株式会社取締役。小学校、高校、大学院の計8年をアメリカで過ごした。小学生時代の「大草原の小さな家」シリーズを読破して以来、英語で書かれた本は原著で読みたい。
各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります
(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)
この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。
この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。
私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。
簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。
それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。
ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。
少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。