おわりに

 筆者は、以前の記事「欧米のウクライナ支援疲れが顕著に、2024年の戦況はこう動く」(2024.1.9)で、欧米からの軍事支援が縮小し、戦場での勝利が難しくなったウクライナが、ロシアに勝利するためには、日露戦争で日本勝利の重要な一因となった明石謀略を模倣すべきであると述べた。

 今はより強くそのように思っている。

 ロシア(旧ソ連)は、ナポレオン軍に侵略されても、ヒトラー軍の侵攻を受けても負けなかった。

 それが日露戦争ではたいして侵攻もされていないのに、日本に負けた。

 なぜか、それは明石謀略があったからである。

 明石大佐は、ロシア共産党に働きかけて、武器、弾薬、資金を供給するとともに、農民労働者の暴動、水兵の反乱、在郷軍人の招集拒否運動、満州への軍隊輸送妨害工作などを扇動し、ついに無政府状況に陥らせ、ロマノフ政権に戦争継続意欲を放棄させたのである。

 上記の明石謀略と比べると、ウクライナの現在の後方攪乱工作は、筆者には低調に思える。

 ウクライナは、プーチン政権打倒を掲げるロシア人武装組織「自由ロシア軍団」や「ロシア義勇軍団」、「シベリア大隊」が、ロシア国内のインフラ破壊(電力供給の停止、水道の断水、交通網の寸断、通信網の障害など)を行うことを支援することができる。

 また、2024年3月22日、ロシアの首都モスクワ郊外の広大なショッピングセンター内のコンサートホールで、武装集団が観客を銃撃した。

 同日には「イスラム国ホラサン州」が、犯行声明を発出した。

 プーチン大統領の20年以上にわたるイスラム教徒に対する情け容赦のない弾圧と最近では旧ソ連邦の構成国からのイスラム教徒である移民(出稼ぎ労働者)を強制的かつ差別的にウクライナ戦争に参戦させるなどで、旧ソ連邦構成国のイスラム過激派からの恨みと怒りを買っている。

 ウクライナは、これらのイスラム過激派が、ロシア国内、とりわけ首都モスクワでのテロを行うことを支援することができる。

 さらに、ウクライナ軍は、物理的被害は大きくないが、一般大衆に及ぼす「心理的効果」が大きい長距離ドローンによる首都モスクワ攻撃を行うことができる。

 最後に、筆者は、ウクライナによる様々な手段を緊密に連携させた後方攪乱工作で、ロシア社会に混乱と動揺を惹き起こし、プーチン政権の早期打倒が実現することを願っている。