『のらくろ』のアニメ化で一肌脱いだやなせたかし

 朝ドラ『あんぱん』で描かれていたように、やなせたかしもまた、『のらくろ』を愛した読者の一人だった。『のらくろ』を手がける前に田河水泡が『少年倶楽部』で初めての連載として描いていた『目玉のチビちゃん』も愛読していたという。

 自身の創作活動にも影響を与えたとして、インタビューでは、こんなふうに振り返っている。

「オレの子どもの頃はね、今みたいに漫画雑誌はなかった。『少年倶楽部』っていうのがあって、それに田河水泡が『のらくろ日記』っていうのを描いてて。『のらくろ』とか、 その後の島田啓三『冒険ダン吉』とかね、そういうのには、結構影響受けてると思う」

 1970(昭和45)年に『のらくろ』がアニメされたときには、その主題歌の作詞をやなせたかしが担当している。かつて自分が夢中になった漫画のアニメ化に携われるとは、その喜びは格別だったことだろう。

出版と叙勲を祝う会に出席した「のらくろ」の生みの親、田河水泡氏(1987年撮影、写真:共同通信社)

 朝ドラでは、やなせの後年の活躍ぶりがどのように描かれるのか。楽しみで早く見てみたいが、やなせが作品に込めた平和への思いを理解するには、まずは戦争でのつらい経験を共有しなければならないだろう。

【参考文献】
『人生なんて夢だけど』(やなせたかし著、フレーベル館)
『ボクと、正義と、アンパンマン なんのために生まれて、なにをして生きるのか』(やなせたかし著、PHP研究所)
『何のために生まれてきたの?』(やなせたかし著、PHP研究所)
『アンパンマンの遺書』(やなせたかし著、岩波現代文庫)
『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(梯久美子著、文春文庫)
『芸術家の独創 私の履歴書』(田河水泡著、日経ビジネス人文庫) 
『世界人物逸話大事典』(KADOKAWA)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。