徴兵検査(1930年4月16日、小石川区役所/日本電報通信社撮影/写真提供:共同通信社)

 NHKの連続テレビ小説『あんぱん』が好評だ。主人公の朝田のぶは漫画家やなせたかしの妻・暢(のぶ)をモデルにしており、やなせたかしをモデルとした「柳井嵩(やない・たかし)」との物語である。5月5日~9日の放送分(第6週「くるしむのか愛するのか」)からは、嵩が上京し東京高等芸術学校でいかに学生生活を謳歌したかが描かれた。その一方で、次第に戦争の影が忍び寄り、のぶの祖父である釜次の下で働く若き石工・豪(ひろし)のもとに「赤紙」が届く。当時、赤紙はどんなふうに届けられたのか、また召集から逃れることはできなかったのか──。近著『大器晩成列伝』を上梓した著述家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

いつになく真剣な「ヤムさん」の言葉

「今からそのへんの石を足にどーんとやったらどうだ? 手伝ってやろうか? 痛いのがダメだったら醤油だ、醤油。一升かっくらって倒れてしまえ」

 阿部サダヲ演じる風来坊のパン職人「ヤムさん」がむちゃくちゃなことを言うので、石工の豪が「何いいゆうがですか」と呆れると、ヤムさんはこう語気を強めた。

「行くな……戦争なんてろくなもんじゃねえよ」

 普段、ふざけてばかりのヤムさんが、「赤紙」を受け取ったばかりの豪を、なんとか戦地に行かすまいとする様子は、胸にこみあげてくるものがあった。

 視聴者もヤムさんの意見に大いに共感したことだろう。だが当時、赤紙から逃れるのは簡単ではなかった。