代表作《蛍》のピュアな美しさ

展示されている松園作品は、初期から晩年まで22点。代表作のひとつに数えられる《蛍》は、若い女性が蚊帳を吊るしているところへ、一匹の蛍が飛び込んできた場面を描いたもの。松園は本作の制作にあたって、喜多川歌麿の《絵本四季花(上)雷雨と蚊帳の女》を参考にしたと指摘されている。
その指摘通り、構図や女性のポーズなどはよく似ているが、画面にあふれる空気はまったくと言っていいほど違う。歌麿の作品からは、入浴後の美人と蚊帳の組み合わせに艶めかしさを感じるが、松園の作品には健康的な清らかさがあふれている。蛍に目を向ける女性のまなざしはやさしく、ピュアで美しい。
《蛍》の制作について語った松園自身の言葉を紹介したい。
「蚊帳に美人を配するのですが、美人も太夫にすれば画面は賑やかですが、それでは卑しくなります。とかく蚊帳に美人と言えば艶めかしい感じのするものですが、この艶めかしそうなものを極く清く、高く写したいので、美人は良家の女房で蚊帳を釣ろうとすると、一匹の蛍が飛込だので、フトその方に眼を移して居るのです。風俗も今のでは興味が浅く古のはモッサリいたしますから天明頃を狙いました。」(『京都日出新聞』1913年9月18日付)