
(ライター、構成作家:川岸 徹)
清らかで気品に満ちた美人画で知られる上村松園。2025年に松園が生誕150年を迎えることを記念し、数々の名品から彼女の画業をたどる特別展「生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち」が東京・山種美術館で開幕した。
松園が描きたかった美人画とは?
かつて美人画は日本画の重要なジャンルだった。だが、美人画という言葉を目にする機会は減ったように感じる。美人という表現が問題視されるようになり使いにくくなってしまったこと、個性が尊重されるようになり美の捉えかたが多様化したことなどが理由だろう。
だが、美人画の名手・上村松園の人気は一向に衰えない。新しいファンをも着々と増やし続けている。生誕150周年にあたる2025年、大阪中之島美術館では「生誕150年記念 上村松園展」が開催されている(6月1日まで)。そして、5月17日には東京・山種美術館にて特別展「生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち」が開幕した。
なぜ、上村松園は時代を超えて支持を集めるのだろうか。まずは松園が残した言葉を紹介したい。
「私は大てい女性の絵ばかり描いている。しかし、女性は美しければよい、という気持ちで描いたことは一度もない。一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ私の念願とするところのものである。
その絵を見ていると邪念の起こらない、またよこしまな心をもっている人でも、その絵に感化されて邪念が清められる……といった絵こそ私の願うところのものである。
芸術を以て人を済度する。これ位の自負を画家は持つべきである。よい人間でなければよい芸術は生まれない。」(「棲霞軒雑記」『青眉抄』より抜粋)
松園が描こうとしたのは見た目の美しさだけではなく、内面の美。「写実は写実で重んじながらも、女性の美に対する理想やあこがれを描き出したい」。そうした気持ちで、松園は女性像の表現を生涯かけて追求したのだ。
さて、山種美術館にて開幕した特別展「生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち」。山種美術館の創立者・山﨑種二は松園と親交があり、松園の名品を数多く所蔵しているが、本展ではそうしたコレクションに加えて、個人蔵の作品も出品されている。20代の頃に描いた《姉妹》など、見る機会の少ない若き日の松園に出会えるのがうれしい。
