キンメモドキから分かった信じがたい結果

別所:50年ほど前に、キンメモドキはトガリウミホタルと同じルシフェリンを用いて発光しているという論文が出されたものの、どのようなルシフェラーゼを使って発光しているのかはわからないまま長い間放置されていました。

 魚とウミホタルは全く異なる生物です。にもかかわらず、共通したルシフェリンを使って発光しているというのは非常に興味深いと感じました。また、キンメモドキの近縁の魚のほとんどが発光能力を持たないのも不可解です。

 そこで、キンメモドキのルシフェラーゼを明らかにしようと考え、そのアミノ酸配列を解析しました。すると、キンメモドキのルシフェラーゼは、トガリウミホタルのルシフェラーゼと同じアミノ酸配列を持つことが明らかになりました。

 魚類と甲殻類という離れたグループであるにもかかわらず、発光のために同じ化学物質を使っているという信じがたい結果でした。

 私は、キンメモドキはトガリウミホタルを捕食して、そのルシフェリンとルシフェラーゼをそのまま自身の発光に用いているのではないかという仮説を立て、野外から採取してきたキンメモドキを使った実験をしました。

 野外では、キンメモドキはトガリウミホタルを主な餌としています。実験では、野外で採取したキンメモドキに、野生では食べないはずのウミホタルを餌として与えました。

 トガリウミホタルとウミホタルでは、ルシフェラーゼのアミノ酸が異なります。ウミホタル捕食前後のキンメモドキのルシフェラーゼのアミノ酸を比較することで、それが餌由来か否かを知ることができます。

 野外から採取後、1週間経たないキンメモドキの体内には、たくさんのルシフェラーゼがありました。3カ月、1年と水槽で飼育していくと、時間が経つにつれて体内のルシフェラーゼの量は減っていき、それに伴い発光も弱くなっていきました。

 そのタイミングで、キンメモドキに餌としてウミホタルを与えると、2週間から1カ月で発光能力は回復していきました。このキンメモドキのルシフェラーゼのアミノ酸配列を解析すると、餌として与えたウミホタルのルシフェラーゼのアミノ酸配列と完全に一致しました。

 その一方で、キンメモドキ自体のゲノムからは、ルシフェラーゼの遺伝子を見つけることはできませんでした。

 つまり、キンメモドキは自身の体内でルシフェラーゼを合成しているのではなく、餌由来のルシフェラーゼをそのまま使っているということです。なお、キンメモドキはルシフェリンも餌由来のものを使っているため、発光の仕組みそのものを餌に依存していると言うことができます。

キンメモドキの発光メカニズム(出典:名古屋大学プレスリリース)

──キンメモドキの発光メカニズムの研究は、学界にどのようなインパクトを与えたのでしょうか。