メルケル路線からの決別
CDUのなかで、メルツは党首だったメルケルと対立して敗れ、2009年には政界を去っている。引退後は経済界で成功した。そして、2021年に政界に復帰し、2022年に党首に就任した。

メルツは、メルケルが採ってきたリベラルな中道路線を転換させようとしている。
その典型は、移民政策である。ナチス時代の反省から、移民や難民に対して寛容な政策を採用し、SPDのショルツ政権も同様な路線を継続してきた。しかし、それがシリア難民などの大量移入となり、治安の悪化など様々な問題を起こしたのである。
住居、教育など難民支援のための財政負担も、行政にとっては大きな重荷となっている。現在、ドイツには300万人超の難民がおり、人口の4%を占めている。
移民排斥を掲げる極右のAfDが2月の総選挙で第2党に躍進したのは、それが理由である。
経済の不振も大きな問題である。メルケル時代には、安価なロシア産の天然ガスと広大な中国市場にドイツ経済を依存させてきた。ところが、ウクライナ戦争でロシアからのエネルギー輸入が途絶え、また中国におけるEVの開発はドイツ車の輸出にブレーキをかけた。
そのため、ドイツ経済は過去2年間マイナス成長であり、今年もそうなると予想されている。しかも、トランプの関税攻勢である。
このような状況に対して、メルツは、法人税の段階的引き下げを約束している。
エネルギー問題については、EUは、2027年末までにロシア産天然ガスの輸入をゼロにする予定である。ロシア産ガスの輸入が減った分だけ、アメリカ産LNGの輸入が増えているが、これはトランプの圧力にもよる。
ドイツには、事故で使用されなくなった海底パイプライン「ノルドストリーム」の再開を求める声もある。ウクライナ停戦のタイミングにもよるが、ロシア産の天然ガスの輸入再開に漕ぎ着けられるかどうか、ドイツのエネルギー政策の今後は不透明である。
この点に関連して、メルツは、電力料金を引き下げることを公約している。
メルケル政権は、東日本大震災の際の福島第一原発の事故を教訓として、脱原発、再生エネルギー利用に政策を大転換した。エネルギー価格が高騰する中で、原発復帰を求める声もある。メルツ政権の舵取りが注目される。