危うい「リマイグレーション」思想
先の原稿でも述べたように、米国から強制的に追放・投獄された大量の移民の中には犯罪歴のない人たちも多数いる。米政権のやり方は、AfDが提唱する「自分たちの意思に染まない」人たちを排除する、差別的で白人至上主義的な移民の大量追放、つまり、ナチスの優生思想に通じるいわゆる「リマイグレーション」を体現しているようである。
その上バンス副大統領は昨年の大統領選において、ハイチ系移民がペットをさらって食べているという、ナチスのユダヤ人に対するヘイト扇動にそっくりなプロパガンダを繰り返した。当時そのような事実がないことをインタビューで追及されると、「噓(うそ)も方便」と認めるような発言までした。
白人至上主義者らの票集めが目的であったのなら、それこそ人々の尊厳を踏みにじる「非民主主義的」なパフォーマンスだったと言える。
ナチスに類似する思想のバンス副大統領のような人物らで形成される米政権に、ユダヤ人の大量虐殺の歴史を繰り返さぬよう策定された独基本法、ドイツの民主主義やベルリンの壁にまでついてSNSで軽々しく語られることは、日本人である私でさえ冒涜(ぼうとく)と感じ、憤りを覚える。良識あるドイツ人ならなおさらだろう。
つい最近はカナダとオーストラリアで「反トランプ効果」とでも呼べそうな右派ポピュリストの選挙での敗北が相次いだ。しかしトランプ氏の暴挙を目の当たりにし、また過激派との認定がなされてもなお、AfDへの支持が衰えないドイツの行方が懸念される。
楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。