デジタル産業を奨励する政策は施されていない。ドイツでは新しいものを手に入れるには何かを諦めなければならないというゼロサム思考が蔓延している。何かを諦めることへの恐怖心。ドイツ固有の特性は何らかの形で受け継がれ、守られるべきだという神話があると両氏はいう。
メルケル首相の「停滞」の16年
「ドイツは近代国家としての条件をほとんど満たしていない」――ライター、ウィルクス両氏はより根の深いところに問題があると厳しい見方を示す。戦後、ナチスの国家社会主義は反動的な中道主義、財政的マゾヒズム、中身のない道徳主義、リスク回避の文化に置き換わっただけだった。
現状に固執し、変わる必要はないという考え方、歴史に向き合えないことが未来に向けた大胆な改革にドイツが苦戦する大きな要因になっているという。その集大成がアンゲラ・メルケル首相の「停滞」の16年だったと言えるのかもしれない。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。