独りよがりな肥大した自己有能感

──今後、日本で働き方や雇用の方法が変化し、「競争社会」から「共創社会」になっていくにあたり、何が一番大きな障壁となると思いますか。

勅使川原:繰り返しにはなりますが、今、勝っている人の優越感の処理だと思います。

 勝者にこそ、人材開発や能力開発ではなくて、組織開発に興味を持ってもらう必要があります。自分が華々しく活躍できたのも、周りの力添えがあってこそだと回顧する。たまたま分業がうまくいってスポットライトが当たったのです。その脇には陰になった人もたくさんいる。

 自己有能感を幼少期から持っていると案外気づけないことですが、私が組織開発の仕事でご一緒する方の多くは、「ままならない事態」に巻き込まれた経験をしています。「ままならない事態」は、ご本人の大病、ご家族の介護、お子さんの障害などさまざまです。

 今、自分が勝っている、組織がうまく回っている状態は一時的な偶然に過ぎないと理解し、さまざまな人が持ちつ持たれつやっていく必要があると認識して、相談にくるケースが多いように感じています。

「ままならなさ」を知ることで、肥大した自己有能感が独りよがりなものだと気づき、優越感を手放すチャンスになると私は思っています。ですので、今、勝っている人にこそ、「ままならない事態」に巻き込まれることを恐れないでほしい。自己拡大のまたとない好機ですから。

勅使川原真衣(てしがわら・まい)
組織開発専門家
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て、2017年、組織開発を専門とする「おのみず株式会社」を設立。企業をはじめ病院、学校などの組織開発を支援。2020年から乳がん闘病中。著者に『働くということ』(集英社)、『職場で傷つく』(大和書房)、『格差の”格”ってなんですか?』(朝日新聞出版)などがある。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。