「朝の会」をやめて起きた生徒の変化

──齋藤先生はかつて、思い切って「朝の会」や「帰りの会」をやめてみたことがあると書かれています。

齋藤:朝の会や帰りの会を、担任時代から20年ほど続けていました。ある時にふと「これでどんな力が付いているのか」と疑問に思ったのです。朝の会は15分くらいかかり、帰りの会も10分くらいかかります。年間に換算するとかなりの時間になります。

 帰りの会には「いいとこ見つけ」のコーナー(クラスメイトのいいところを見つけて褒め合う習慣)などもあり、どこかショーのような印象もあります。

 誰かが良いことをしたら、皆の前で発表するのではなくて、自分でその人に感謝の思いを伝えればいい。係の連絡事項があれば、自分で必要なタイミングで必要な手段で皆に伝えればいい。挨拶も「いっせいのせ」でするのではなく、自分の意思でするべきです。私はそういう説明をしてから、朝の会と帰りの会をなくしました。

 最初生徒たちは戸惑っていました。しかし3日もすると、生徒のほうから「先生、何かしてもいい?」と質問されました。私は何をしてもいいけれど、他クラスの邪魔をしないことと、学力が落ちるようなことはしないでほしいとお願いしました。

 すると、子どもたちが自分で調べてきて、あれをしてみたい、これをしてみたいとさまざまな提案をするようになりました。

 朝運動すると成績が上がると調べてきた生徒から体育館を借りてほしいとお願いされたので、そうしました。それから、毎朝体育館で遊びました。

 1カ月ぐらい自由に遊ぶと、生徒たちは変化を求めます。自分たちで考案したグループ活動を始めたり、中には自分たちの新聞を作り始めたりする生徒たちもいました。素晴らしかったですよ。かつては見られなかった自主性が生徒たちの中に生まれたのです。

 汚いところを掃除したり、転んだ低学年の子を助けたり、大人任せ指示任せではなく、自分たちで率先して動くようになりました。

 私は、クラスの係活動も廃止していきました。生き物係、黒板係、かつては小さな仕事の分担がありました。給食や掃除の当番は残しましたが、他は当番制をやめたのです。日直がないので、号令は気がついた子が言います。係活動がなくなると、生徒たちが淀みなく動くようになります。

──あえて自由や自由時間を与えたのですね。

齋藤:自分で考える時間と場面を与えたのです。考える場面が多いほうが思考力は付きます。

 修学旅行の準備を生徒たちに任せたこともあります。バスと旅館と日程だけは教師側でおさえ、あとはすべて任せました。これも良かった。判断の連続ですよ。旅行代理店と折衝するのも端数を値切るのも子どもたちです。活躍の場、思考の場を与える。すると劇的に子どもたちは変わります。

 修学旅行が終わってちょっとしてから、ある朝、体育館で朝会があったのですが、ある子どもが怪我をして、その対応で、先生たちが朝会に参加するタイミングが少し遅れました。

 その後、体育館に遅れて行って驚きました。生徒たちが自分たちで集合して、「この学校はこれからどうあるべきか」と壇上から他の生徒に話しかけて議論していたのです。教員たちは校長に「しばらく邪魔しないで見ていましょう」と言いました。

 やがて生徒たちから「卒業式も自分たちで準備させてほしい」と言われました。過去の動画を見て工程を確認して、自分たちで感動できる卒業式を演出すると生徒たちから提案してきたのです。

 卒業式の練習も含めて私たちも生徒に全て任せました。間違いなく、あの修学旅行の影響だったと思います。子どもは任せればやります。ダメだと言ってルールを作ると、自分からは動かなくなるのです。

齋藤 浩(さいとう・ひろし)
公立小学校教諭
新採用教員指導教諭、神奈川工科大学非常勤講師。著書に『学校に蔓延る奇妙なしきたり』(草思社)、『保護者クレーム劇的解決話術』(中央法規)などがある。2024年、財務大臣表彰を受彰。インスタグラム(hiroshi_saito4649)にて教育関連の情報を投稿。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。