不動産部門の切り離し提案では一致する北尾氏とダルトンだが…
再建私案の中で北尾氏は、世界のメディアを巡る環境が大きく変化していることを挙げ、それに対応するためには「金融・IT・メディアの融合戦略」が必要だと強調した。
北尾氏は慶應義塾大学経済学部を卒業して野村証券に入社。事業法人三部長を務めるなど順調に出世を重ねるが、途中で挫折。ソフトバンク(当時)の孫正義氏に請われて移籍し、同社の成長を財務面から支えた。この時北尾氏は、インターネットと金融に親和性に気づき、やがてSBIを率いて独立、インターネット金融の最大手に育て上げた。
そして今ではITと金融に、メディアが加わった。ここでいうメディアとは、テレビに代表される既存のメディアに加え、SNSも含まれる。
アメリカではイーロン・マスク氏がXを買収。これがトランプ再選に果たした役割は極めて大きい。しかもマスク氏は、Xをプラットフォームにさまざまな金融サービスの提供を始めている。是非の問題ではなく、世の中は確実に動いている。
北尾氏にしてみれば、30年前にソフトバンクに入社した時と同様の可能性を感じていることだろう。
ただし、ハードルは決して低くない。まず、6月に開かれる株主総会で、北尾氏が取締役に選ばれる保証はどこにもない。ダルトン側の取締役候補には入っているものの、FMHの候補に北尾氏の名前はない。
北尾氏は今後、FMHとダルトンが話し合って、新たな候補をFMH側から出すべきだと言うとともに、FMHが変わらなければ、株式取得も含め徹底的に対抗する意欲を隠さない。
仮に取締役に選ばれたところで、その先も簡単ではない。フジテレビの広告収入がほぼ途絶えた今、FMHの収益を支えているのは、グループ会社のサンケイビルなどによる不動産収入だ。ダルトンも北尾氏も、この部門を切り離すべきと主張する。
ただし、ダルトンはそれによって得た利益を株主に還元すべきとしているのに対し、北尾氏はメディア部門に投資すべきと主張する。短期的利益と中長期利益の追求という根源的な問題が横たわる。