中国やEUの報復関税、驚きの仕掛け
トランプの第1期政権における関税政策と、それに対する報復関税を検証したThiemo Fetzer and Carlo Schwarz(2021)の論文では、驚くことにEUや中国はトランプ支持者が多いアメリカの郡が、他の郡よりも打撃を受けるような報復関税を仕掛けていたことが示されている。
【図2】
図2は、ざっくりいうとそれぞれの国・共同体の報復関税の影響度をアメリカの郡ごとに色分けしたもので、赤色が濃ければ濃いほど影響度が大きい。中国などは一目瞭然だが、明らかにトランプ支持者が多い中西部がより影響を受けるような関税のかけ方をしている。
読者の中には、あえて狙ったのではなくて、例えば中国においては、そもそも中国への輸出が多い農産物などに関税をかけたのだから、こうなるのは当たり前じゃないか、と思われる方もいるだろう。この当然の疑問には論文の著者らも答えていて、このような関税のかけ方では彼らが発見した結果にはならないことを示している。
さらにこの論文で興味深いことは、EUにしろ中国にしろ、2012年と2016年のアメリカ大統領選挙を比べると、この間に民主党支持から共和党支持に傾いた人の割合が高い地域ほど関税の影響度合いが強くなるように、報復措置が設定されていたとの指摘だ。
これらのエビデンスは、貿易戦争が中長期的に長引かないようにするためか、トランプ政権が2期目を迎えられないようにするために、中国やEUがしたたかに報復関税を設計したことの証拠のようにも、筆者には見えるのである。
詳細についてはぜひ、Thiemo Fetzer and Carlo Schwarz(2021)の論文を読んでみてほしい。
【参考論文】
▶︎Thiemo Fetzer, Carlo Schwarz, Tariffs and Politics: Evidence from Trump’s Trade Wars, The Economic Journal, Volume 131, Issue 636, May 2021, Pages 1717–1741,
https://doi.org/10.1093/ej/ueaa122
https://academic.oup.com/ej/article/131/636/1717/6029124

公共経済学・ミクロ理論が専門で、近年は運と格差をテーマに研究に取り組む。2011年アメリカ創価大学教養学部卒業、12年米エール大学経済学部修士課程修了、12〜13年イノベーション・フォー・パバティアクション研究員、13〜14年世界銀行短期コンサルタント、20年米ペンシルベニア大学ウォートン校応用学部博士後期課程修了、20年一橋大学イノベーション研究センター特任助教、21〜24年一橋大学イノベーション研究センター特任講師、23〜25年経済産業研究所(RIETI)政策エコノミスト、25年4月から現職。WEBサイト、YouTube「経済学解説チャンネル」