ガソリン暫定税率の廃止で、実はドライバーの負担は増えるかもしれない?(写真:アフロ)
(小泉秀人:一橋大学イノベーション研究センター専任講師)
2025年11月28日、ガソリン暫定税率廃止が参議院でほぼ全会一致で可決された。ガソリン税を下げれば、ドライバーの負担は減る。この主張は一見すると理にかなっているように見える。
しかし、経済学的なデータは、この直感が誤りであることを示している。ドライバーの負担、特に都市部のドライバーの負担は今よりも上がることが予想され、実質的な出費は増える。理由は、「事故の外部性」というものにある。
どういうことか、詳細を見ていこう。
運転の隠れたコスト、「事故の外部性」
経済学では、ある人の行動が他者に意図せず損害や利益を与えることを「外部性」と呼ぶ。
損害であれば「負の外部性」、利益であれば「正の外部性」と呼ぶ。例えば、企業が人の健康を害することを目的としていなくても、工場の排煙で周辺住民の健康を害してしまうのは典型例である。だが、実は自動車の運転にも同様の外部性がある。それが「事故の外部性」だ。
例えば今、道路に車が1台しか走っていないとする。この場合、他の車と衝突するリスクはない。そこに、あなたの車が入っていくとしよう。あなたがどんなに安全運転をしていようとも、どうしても事故の確率は上がるはずだ。
1台の車が道路に加わるだけで、その車が他車と衝突する可能性が生まれ、同時に既存のドライバー全員の事故リスクも上昇する。このコストは、運転している本人ではなく、周囲のドライバーが負担する。
問題は、このコストがガソリン代などの「目に見えるコスト」と違い、価格として意識されにくいことだ。ドライバーは自分の保険料は払うが、自分が他者に与えているリスクの対価は払っていない。これが過剰な車の交通量を生み、社会全体で非効率な状態を作り出している。