「安くする」ことが常に正しいわけではない
ガソリン暫定税率廃止は、物価高対策の一環であった。しかし、経済学が教えてくれるのは、価格には「情報」と「インセンティブ」という重要な役割があるということだ。
価格が安すぎれば、人々は過剰に消費し、社会全体に負担をかける。ガソリン税もその一例だ。税を下げて運転コストを安くしすぎれば、道路が混雑し、事故が増え、保険料が高騰する。結局、ドライバー自身の首を絞めることになる。
高密度の交通社会において、運転コストを適正に保つことは、単なる「増税」ではなく、全員の安全と経済的利益を守るための合理的な選択である。「ガソリン税を下げてほしい」という願いは切実だが、その結果として私たちが払うことになる「見えない請求書」は、想像以上に高額になる可能性があることを理解すべきだ。
【参考文献】
・Edlin, A. S., & Karaca-Mandic, P. (2006). The accident externality from driving. Journal of Political Economy, 114(5), 931-955.
小泉秀人(こいずみ・ひでと)一橋大学イノベーション研究センター専任講師公共経済学・ミクロ理論が専門で、近年は運と格差をテーマに研究に取り組む。2011年アメリカ創価大学教養学部卒業、12年米エール大学経済学部修士課程修了、12〜13年イノベーション・フォー・パバティアクション研究員、13〜14年世界銀行短期コンサルタント、20年米ペンシルベニア大学ウォートン校応用学部博士後期課程修了、20年一橋大学イノベーション研究センター特任助教、21〜24年一橋大学イノベーション研究センター特任講師、23〜25年経済産業研究所(RIETI)政策エコノミスト、25年4月から現職。WEBサイト、YouTube「経済学解説チャンネル」