本当のコストはさらに巨大

 しかも、上記の数字はあくまで「自動車保険でカバーされたコスト」に過ぎない。実際の外部コストはさらに大きい可能性が高い。

 第一に、渋滞による経済損失がある。交通量が増えれば、渋滞が発生し、多くの人の時間が奪われる。これは保険では補償されないコストだ。

 第二に、保険でカバーしきれない死傷コストがある。重度の障害や死亡による本人や家族の苦痛、生涯所得の喪失などは、保険金では完全には補償されない。

 エドリンらの研究によると、これらを含めると実際の外部コストは、保険データから推計される値の約3.5倍に達する可能性があるという。カリフォルニア州の場合、ドライバー1人あたり年間1万ドル(150万円以上)を超える外部コストを発生させている計算になる。

ガソリン税は「安すぎる」のか

 こうした外部性を是正するために、経済学では「ピグー税」という考え方がある。これは、外部性を引き起こす行動に課税することで、行動者に真のコストを負担させ、社会的に適切な水準まで活動量を抑制する税である。

 エドリンらの研究によれば、もしドライバーに彼らが発生させている「真のコスト(外部性)」を負担させるならば、ガソリン税などを通じて年間2200億ドル以上(全米)の徴収が必要となる。これは逆説的に言えば、現状のガソリン税は「安すぎる」ため、過剰な運転と事故を誘発していることを意味する。

 ガソリン税を削減すれば、この問題はさらに悪化する。交通量が増え、事故が増え、保険料が上がる。ドライバーはガソリン代で得をしたつもりでも、保険料で損をする。しかも、事故による怪我や死亡のリスクも高まる。これは経済的にも、社会的にも望ましくない。